医学部受験生は「ゾウリムシ」問題に大苦戦
実際に周囲にいる医学部受験生や一般の大学生、さらにここ数年以内に東京大学の理系を卒業した人など複数名に問いかけてみた。その内の何人かの回答の概略まず紹介しよう。
①医学部受験生A
「僕は直感的にXにおけるゾウリムシの断面図の輪郭はカではないかと感じています。イあるいはカで迷いますが、切断面の輪郭が単純に楕円形というのはおかしいので、カのような感じなのではないかと思います。理由はと問われると、答えに詰まります。なぜなら教科書や図解集でゾウリムシの図を見る機会はありますが、この問題の図のように平べったいわらじのような形状しか見たことが無く、それ以外のゾウリムシの図や写真を知らないからです」
②医学部受験生B
「Xにおけるゾウリムシの断面図の輪郭ですか? この図で言うと、図の上側、つまり『細胞口』のある側がくぼんでいるはずなので、図1の線Xを床と平行にし、Zの側から断面図を見れば、向かって左側がくぼんだ図になるはずです。そうすると、あれ、えっ、左側だけがくぼんだ図が無い」
③医学部受験生C
「図1と書かれた側からXと書かれた側に引かれた直線でゾウリムシを切断すると、その切断面は真ん中に楕円状に見える大核を横切るのではないでしょうか。大核の形状はよく知りませんが、多少はふくらみがあると想像します。ゾウリムシは平たい感じだろうから、カが1番、近いのではないだろうか。」
④音楽大学学生
「ゾウリムシは高1の生物基礎で学んだように思います。うろ覚えですが、図1と書かれている側のくぼんだ部分は『細胞口』という名だったと思います。見たところ『細胞口』はかなりくぼんでいるようなので、ウではないかと思います。エではくぼみが浅すぎるし、どうでしょう、図1側に示されたくぼみの感じとは違うように思います」
各人の論評はなかなか面白い。正誤はともかく、興味深いものだ。そして大方予想通りの解答が出揃ったという感じだ。
まず、多くの回答者に共通の傾向は、直線Xで切断した切断面を、直線Xを床に平行にみてZの方向から眺めているという点である。10人以上に問いかけて多くの者がそういう観察態度だったので、これはおそらく人間の持つある種の本性、本質的な傾向なのであろう。
上に示した回答の中では、④の音楽大学生が図1の側を上にして、つまり線Xを床に垂直に見て、Zの側から断面図を見ているが、ここに紹介した医学部受験生はそのように解釈していない。音楽大学生は大学受験に際し、生物を受験科目とはしていないが、対象を見つめる視点は柔軟である。
この東京大学の問題は論理的思考力、中でも推理力を試す問題だと思うが、まず図1と書かれた上側の部分で直線Xが切断しているくぼんだ部分が『細胞口』という「口」であるという知識は必要である。その上で細胞口の溝の深さがエではなくウが相応しいと推理できるかがポイントになる。