ゾウリムシはワラジのような薄っぺらい形だと思っていませんか?(※写真はイメージです/PIXTA)

医学部入試や東大入試の問題をパラパラ見ていると、「この問題、面白い!」と魅きつけられる良問に出くわすことがある。それは最小限の知識を前提に、受験生に本質的な論理的思考力がどう備わっているかを試そうとする問題だ。いわば、地頭の良さが問われる問題ともいえる。そこでこれまで見てきた医学部入試や東大入試の中から、興味深い入試問題をこの連載では順次紹介していくこととする。
医学部や東京大学の入試問題は面白い。知的好奇心がくすぐられ、腕に覚えのある受験生でも答えに窮する「風変わりな問題」も多い。連載の第1回は東京大学の入試生物で出題された「ゾウリムシ」を取り上げる。なかなか手ごわいが、読者の皆さんもチャレンジしてほしい。

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意外!ゾウリムシの立体的な形状はサツマイモ

解答を論理的に考えるうえで、現実的な実際の話をポイント別にいくつか見ていこう。まず、ゾウリムシの形状であるが、ゾウリムシは、ワラジやゾウリのような形をしており厚さは薄いステーキのような形状だと多くの人が思っていることだろう。

 

しかし、ゾウリムシについて研究された専門書を紐解くとどうもそうではない。また、学者の専門的な複数の論文などに目を通すと、ゾウリムシの立体的な形状としては、サツマイモの形状に近いとか、ラグビーボールのような形との記載が目立つ。

 

また、断面図を考慮する上で重要な「細胞口」の切り込みと深さもそれなりのものがある。入試問題文のイラストで示されたように直線Xで切断し、図1と書かれた側を上に、Xと書かれた側を下にしてZの側から眺めれば、ウに近似した形に見えるだろう。

 

専門書に掲載されているゾウリムシの電子顕微鏡写真や、ネットでの検索画像をもとに再現すると、ゾウリムシの実像は下のイラストのようであり、想像していた形状との違いに驚く人が多いだろう。それは「ぞうり」というイメージが我々に潜入観として植え付けている形状と実像がかけ離れているからである。

 

イラストレーション=美瑛
イラストレーション=美瑛

 

生物にとって、「口の持つ意義」から考える

最後に、⑤東京大学の理系を最近卒業した人のコメントに触れておこう。

 

「細胞口のところで、直線Xが切断しているので断面図は口のような切り口になるはずです。そこでウとエで迷うところだと思いますが、細胞口というぐらいだから、これは口です。そして口という以上、食べ物がすぐに出て行ってしまうような構造では、生物が備える器官としてはどうでしょうか。いくら原生生物で単細胞とはいえ、生命を維持する上で利益となるような形状で形づくられているはずです。また、図1の側を上部に見ると、図1と書かれた側からXと書かれた側が断面図の高さに相当するので、エでは高さが低すぎると思います」

 

ゾウリムシの電子顕微鏡写真を見ていれば、難無く解ける問題であろうが、東京大学卒業生のように、推理力を働かせながら、こういう思考法が出来れば解答に近付くことはできる。本問においては、断面図の輪郭の高さは掲載の図の背後(下側)にあり、ゾウリムシの上面に隠れて見えていないと考える人が多かったろう。

 

しかしこの見方はこの問題においては誤りだ。選択肢で与えられた図の高さは見えていないのではなく、図1と書かれた側からXと書かれた側のまさにその長さであり、実は見えていたのである。

 

小林 公夫
作家 医事法学者

 

 

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小林 公夫

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