Zoomにより「デジタルシフトの本質」が進化
私自身、さまざまな機会でZoomを利用するなかで、Zoomの世界に「新しい民主主義」のあり方を感じ取りました。なかでも、強く印象に残ったのが、2020年10月に開催された「Zoom未来フェス2020」というZoom環境のなかでのイベントです。
未来フェスは、音楽投稿雑誌『ロッキング・オン』の創刊メンバーで、現在メディア・プロデューサーとして活躍し、多摩大学経営情報学部客員教授を務め、私とも親しい関係にある橘川幸夫氏が、2013年から始めた参加型イベントです。職業や年齢に関係なく、さまざまな現場の人たちが未来に向けた思いや提案を発信する場をつくるというものでした。
以来、各地で実施されてきましたが、2020年はコロナ禍により対面での交流が制限されるなか、Zoomミーティングの形式で開催されました。午後1時から7時15分まで6時間15分の間に、75名の参加者が1人5分ずつ、メッセージを発信しました。
参加者は、小学校校長、会社員、音楽プロデューサー、僧侶、薬剤師、屋台店主、陶工、大学教授、仏師、大学生、高校生、中学生…多種多様で、年齢は10〜80代と幅広く、ハワイやマレーシアからの参加もありました。
たとえば、あるアイドル志望の女子高生は、アイドルだけでは差別化できないと、弁護士資格もとって“弁護士兼アイドルのオンリーワンの存在”になり、テレビ番組でレギュラーの座をねらうという夢を語りました。すると、参加者から賛同の声がわき上がりました。
年配者は若い世代の発言を面白がり、若い世代は年配者の話に耳を傾ける。
現代社会ではさまざまなところに断絶がありますが、Zoomの世界では、閉ざされた世界から解放され、世代を超え、職種や所属を超えてつながり、社会的な地位やポジションに関係なく、「個」としての発信に共感や賛同が集まるのです。
私個人は、Zoomを使い、参加者に図解の技術を伝授する「図解塾」を開催しています。
参加者は大学教授や企業の社長もいれば、子育て中の女性もいる。年齢も32歳から82歳までと幅広い。未来フェスと同様、職業や社会的地位、年齢の違いを超えて議論し合っています。
デジタルシフトの本質は、人々が「時間」「距離」の制約から解放されることにあります。インターネットによって世界中の人々、集団、組織がつながったことで、「いつでも瞬時に」「世界中どこでも」「無限のコンテンツ」を「双方向コミュニケーション」で授受し合うことができるようになりました。
Zoomの世界では、そこからさらに進化し、「権威」や「権力」の制約からも解放され、誰もが参加でき、リアルの世界では発言力が小さい人でも、その発言が共感を呼べば、注目され、高く評価される参加型民主主義が可能になる。
民主主義は一人ひとりの「個」としての自立を前提とします。
Zoomの世界では、あらゆる制約にとらわれない「個」の存在がこれまで以上に問われるようになるのです。
久恒 啓一
多摩大学大学院 客員教授、宮城大学 名誉教授、多摩大学 名誉教授