産業医とその仕事について知っておく
産業医は、企業の従業員の肉体面、精神面の健康を守るのが仕事です。企業は、従業員が50人以上の事業所ごとに、産業医を置くことが義務付けられています。産業医は通常の医師とは違って、患者の診察や薬の処方はしません。では具体的にどんな仕事をするのか、次に見ていきましょう。
①衛生講話
産業医は、職場の従業員に対して、健康管理や衛生管理のための研修を行います。この研修が「衛生講話」です。衛生講話は、企業の要請に応じて行うもので、開催する頻度や開催方法について、詳しい定めはありません。ひと口に衛生講話といっても、事業所の業務内容によって、話すべき内容が変わるので、どんなテーマで話すのか、産業医と企業側で協議する必要があります。
②職場巡回
産業医は、基本的に月1回以上職場を巡回して、従業員が安心して働ける環境かどうか、医師の立場で確認します。職場巡回のポイントは業種によって異なりますが、「事業所の清掃が行き届いているか」「事務所衛生基準規則に準拠しているか」「照度は十分か」「AEDが設置されているか」などについてチェックします。要するに、従業員が安全かつ安心できる環境で、仕事に従事しているか、定期的に確認するのが産業医の仕事なのです。もし職場巡回で問題点が見つかれば、衛生委員会に報告して改善のために動きます。
③健康診断結果チェック
健康診断を受けた結果、何らかの異常が発見された従業員に対して、就業判定を行います。この判定の結果、休職が必要と判断されれば、その従業員に休職するよう促します。
④健康相談
従業員の健康相談に乗るのも、産業医の重要な仕事です。産業医は、肉体面、精神面両方の健康相談を受けます。健康に不安を抱えたまま仕事に従事しても、ミスが増えたり、さらに健康面の問題が悪化することもあるので、従業員の健康相談も産業医の大切な仕事です。
⑤休職面談
休職を希望する従業員に対して行うのが、休職面談です。体調不良が続いていたり、健康面の問題から欠勤や遅刻、早退が多い従業員に対して行います。休職面談は通常、従業員本人からの申し出によって行われるもので、企業側がその従業員の勤怠を見て、要請するものではありません。
⑥復職面談
休職していた従業員が、復職を希望する場合に行うのが復職面談です。休職していた本人の希望で行うもので、病気や怪我の回復状況を見て、復職が可能かどうか判断します。回復状況により、通常の勤務が困難であると判断されれば、勤務時間の短縮や業務内容の変更などをすすめます。無理に通常勤務に復職しても、症状によっては再び休職せざるを得なくなる場合もあるので、しっかりした判断が求められます。
⑦ストレスチェックの実施
近年、仕事の重圧や家庭内の問題が原因で、ストレスを抱える人が増えています。そのため、企業の要請に応じて、ストレスチェックを実施するのも、産業医の重要な仕事です。産業医はストレスチェックを立案し、実施から終了まで全般にわたって担当します。ストレスチェックを実施する際に、産業医は専門家として、意見を求められることがあります。
⑧ストレス者との面談
ストレスチェックの結果、高ストレスと診断された従業員に対して、産業医が行う面談です。高ストレス者の状況によっては、休業を促したり、労働時間の短縮や、業務内容の変更などが必要な場合もあります。
産業医設置による企業のメリット
産業医を設置すると、企業にとって大きなメリットがあります。まず、産業医という専門家による健康指導が受けられるので、日々仕事に忙殺されて、自身の健康を顧みる余裕のない従業員も、健康意識が高くなるでしょう。
また、産業医による職場巡回や、定期的な健康教育などによって、従業員1人1人が自分の健康について、考えるチャンスを与えてくれます。健康について考える機会が増えれば、自身の肉体面、精神面の異常にいち早く気づいて、早期に対処することが可能となります。心身の健康不安を抱えたままでは、仕事も十分にできないため、同僚に迷惑をかけることにもなりかねません。
このように考えると、従業員の健康を維持することは、企業の業務効率の面から見ても、重要であることがわかります。また、産業医を設置することにより、企業が従業員の健康管理に力を入れていることがわかるので、社内外にプラスのイメージを与える効果があります。社内では、従業員の健康を気遣う企業には、この先もずっと勤めたいと思うでしょうし、対外的にも、従業員の健康管理を行う企業が、悪く思われるはずはありません。このように、産業医を置くことによって、企業のイメージアップにもつながります。