(※画像はイメージです/PIXTA)

中国当局は国内に広がる社会格差を是正するため、教育や不動産、フード・デリバリー業界などへの規制強化に動きはじめた。関連する中国株は暴落する展開となっており、更なる規制強化も警戒される。しかし、今のところ中国株暴落による欧米株式市場への影響は限定的となっている。

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中国当局による規制強化を背景に中国株式市場は大きく値を下げる展開

7月の中国株式市場は、中国当局の一部業界における規制強化を受けて大きく下落する展開となった(図表1)。

 

日次、配当込み、円建て、2021年6月末=100で指数化 期間:2021年6月末~7月末 ※国別・地域別のMSCI NET TOTAL RETURN INDEX(USD)を円換算 出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成
[図表1]MSCI米国株、欧州株、中国株指数の推移 日次、配当込み、円建て、2021年6月末=100で指数化
期間:2021年6月末~7月末
※国別・地域別のMSCI NET TOTAL RETURN INDEX(USD)を円換算
出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成

 

その代表的な業界のひとつが教育だ。中国では学習塾の費用が高騰しており、教育格差が問題視されている。このため、小中学生向けの学習塾運営事業者を非営利団体へ移行させるほか、株式市場を通じた資金調達を制限するなど、教育費の増加を是正する構えだ。これを受けて、TAL EducationやNew Oriental Education&Technologyといった中国教育関連株は軒並み暴落した(図表2)。

 

配当込み、現地通貨建て、期間:2021年6月末~7月末 ※TAL EDUCATIONは米国上場ADR、それ以外の銘柄は香港上場株式 出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成
[図表2]急落が目立った主要中国関連株の7月騰落率 配当込み、現地通貨建て、期間:2021年6月末~7月末
※TAL EDUCATIONは米国上場ADR、それ以外の銘柄は香港上場株式
出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成

 

中国当局による規制強化は教育業界だけにとどまらない。住宅価格の値上がりが止まらない不動産業界に対しては、投機的な売買の取り締まりを強化する方針が発表され、上海ではさっそく住宅ローン金利が引き上げられた。不動産業界に対する規制強化観測が強まったことから、China Evergrandeなどの中国不動産株は大幅安となった。

 

中国当局による指導はフード・デリバリーを手掛けるオンライン・プラットフォーマーにも及んだ。フード・デリバリー事業者に対しては、従業員の待遇や労働環境の改善を求める指針が市場監督管当局から発表され、中国フード・デリバリー大手のMeituanの株価が急落した。さらに、中国インターネット企業大手のTencentが同社メッセージアプリの新規ユーザー登録を一時停止すると発表したことから、Tencentの株価も大きく値を下げた。同社は関連する法律と規制を遵守するための一時的措置としたが、今年9月に施行予定のデータ・セキュリティ法に向けた対応との見方がある。

欧米株式市場への影響は今のところ限定的

中国5年CDS(クレジット・デフォルト・スワップ、発行体の信用リスクを対象とするデリバティブ契約)はやや上昇したものの、大幅な信用リスクの悪化を示す状況にはない。また、マーケットの不安が高まる局面で上昇する傾向にある米国株や欧州株のインプライド・ボラティリティ指数(VIX指数とVSTOXX指数)も比較的安定している(図表3)。

 

日次、CDS単位:bps、期間:2020年12月末~2021年7月末 ※中国5年CDS:CHINAGOV CDS USD SR 5Y D14 ※VSTOXX指数:EURO STOXX 50 Volatility Index ※VIX指数:CBOE (S&P500) Volatility Index 出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成
[図表3]中国5年CDS、VSTOXX指数、VIX指数の推移 日次、CDS単位:bps、期間:2020年12月末~2021年7月末
※中国5年CDS:CHINAGOV CDS USD SR 5Y D14
※VSTOXX指数:EURO STOXX 50 Volatility Index
※VIX指数:CBOE (S&P500) Volatility Index
出所:ブルームバーグよりピクテ投信投資顧問作成

 

中国当局による規制強化の流れは今後も続くことが想定されるため、関連業界については注意が必要だ。しかし、これまでのところ中国株の急落は局所的なリスク・イベントにとどまっており、欧米株式市場全体への波及効果は限定的だ。欧米株式市場の市場参加者は、比較的冷静に事態の推移を見守っている状況と言えよう。

 

※個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中国株暴落の背景と欧米株式市場への影響は?』を参照)。

 

(2021年8月2日)

 

田中 純平

ピクテ投信投資顧問株式会社 ストラテジスト

 

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