(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『身近なデータで見た経済動向』を転載したものです。

 

8月のトピック

「日本勢の金メダル数過去最高を更新。東京オリンピック2020大会では選手の活躍が人々の気持ちを前向きにさせる影響が大きい。7月のロイター短観・大企業製造業DIは18年11月以来の水準まで回復。基準改定で、足元プラスになっていた全国消費者物価指数コア前年比は再びマイナスも。」

オリ・パラのアスリートが安心して競技できるよう感染リスクを減らすためステイホームでテレビ観戦を

東京都の新型コロナ感染者数が7月28日~8月1日まで5日連続3,000人を超えた。東京都と沖縄県の緊急事態宣言が8月31日まで延長され、新たに埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府の4府県が追加された。期間は8月2日から8月31日までだ。飲食業界・旅行業界を中心にマイナスの影響がさらに出よう。協力金などでのしっかりした対応が必要であろう。

 

東京オリンピック2020大会は7月23日に開幕した。オリンピックは無観客開催だが、競技場周辺に繰り出す人々が多く、その行動が批判されることもなくテレビに映し出されている。オリンピックとパラリンピックのアスリートたちが安心して競技に集中できるよう、感染リスクを減らすためステイホームでテレビ観戦をするという応援の仕方を、国民みんなで実施しようと呼びかける時ではないかと考える。

 

オリンピックと経済の関係というと、すぐ経済効果はいくらだという人が多い。しかし、コロナ禍という厳しい状況下で、緊急事態宣言によるマイナスとインバウンド需要喪失のダブルパンチを受ける飲食業界・旅行業界では、オリンピックの経済効果という言葉を出すと、「そんなものはない」として反発する人が多い状況だろう。今回は、テレビへの需要、デリバリーサービスへの需要、活躍し注目されたアスリートの関連グッズへの需要、人気が出た競技を新たにやってみようという人の需要などに限定され、足元での経済効果はほとんどない状況である。

 

競技場などの建設は経済効果が大きい。1964年の東京オリンピックの時には、競技場建設の他に、首都高、東海道新幹線、ホテルの建設などが直前まで実施されていて、景気の山は大会が開催された1964年10月になった。今回は、コロナ禍で開催が1年延期されたことなどで、1964年当時と様相が異なる。国立競技場は2019年に完成するなど、かなり前に終了していて、多くの人々にとって現在その効果は過去のものという感覚であろう。またコロナ禍で一般の外国人の来日がないので、飲食、宿泊、観光などのインバウンド需要がほとんどない。さらに、無観客開催になったことで、競技を見た後に立ち寄る飲食需要もなくなった。

コロナ禍の厳しい状況で、東京オリンピック2020でのアスリートの活躍に勇気づけられる人も多い

今大会は、選手の活躍が人々の気持ちを前向きにさせる面の影響が大きいと思われる。世界中のトップクラスのアスリートが一堂に集い、全力で競うオリンピックは、人々の気持ちを前向きにする。スポーツの力のマインド面に与えるプラス効果は大きいものがあると思われる。コロナ禍の厳しい状況下で、アスリートの活躍に勇気づけられる人も多いと思われる。

 

民間エコノミストの予測を集計した7月のESPフォーキャスト調査では、景気の腰折れリスクとして「五輪の再延期・中止」を挙げる人がいなくなった。また、「新型コロナウイルス感染状況」を挙げる人が29人と初めて30人を割り込んだ(図表1)。

 

 

エコノミストの見方として、感染再拡大にならないようにしっかり対応し、無事オリンピックをやり遂げることができるとみるのが、コンセンサスであると言えそうだ。アスリートがオリンピックの檜舞台で実力を十分に発揮できる環境をつくるために、不要不急の外出をしないなどの国民ひとりひとりのサポートが求められる局面だろう。

 

6月の「オリンピック」先行き判断指数DIは52.9と景気分岐点の50を超えてきた。回答数は20年1月と今年5月の152人を大幅に上回る291人と過去最高を更新した。全回答者1,820名の約6分の1がオリンピックに言及したことになる。オリンピックへの関心が高まってきたことが窺える数字である(図表2)。

 

「ワクチン」関連先行き判断DIは61.8と分岐点50を大幅上回る。「オリンピック」同DIも52.9と50超

マインド面へのプラス効果はあるものの、オリンピックが感染を拡大するのでは、という不安の声もある。6月の景気ウォッチャー調査でも「ワクチンの効果次第の面があるが、東京オリンピックの開催によって感染力の強い新たな変異株がまん延することを懸念している」といったコメントがあった。

 

景気ウォッチャー調査での新型コロナウイルスに関するコメント数は直近のピークだった昨年11月の990人から6月は647人と概ね3分の2に減少している。また、新型コロナウイルスに関するコメントをした景気ウォッチャーの回答をもとに、新型コロナウイルス先行き判断DIをつくると、6月では53.5と3月~5月の40台を上回り、良くなるという回答の割合が多いことを意味する50超に転じた。昨年11月の33.2から20ポイント改善している。新型コロナウイルスの影響で景気の先行きが悪くなると見る人が減ってきている、と考えられる。

 

6月の景気ウォッチャー調査をもとにした「ワクチン」関連先行き判断DIは61.8と良くなるという意見が多く、分岐点の50を大きく上回っている。当初は主外国に比べ大幅に遅れていた日本のワクチン接種だが、足元での加速の動きが評価されていることを示していよう(図表3)。

 

 

NHKのHPに掲載されている日本の新型コロナウイルスのワクチン接種回数(100人あたり)は、2ヵ月前の6月2日のデータでは、10.45回にすぎず、米国の88.19回に比べかなり少ない状況だった。8月2日のデータでは、66.42回まで増えた。米国の103.35回に比べ、直近2ヵ月間で約3.7倍のペースでワクチン接種が加速したことがわかる(図表4)。

 

6月の完全失業率と有効求人倍率は改善。自殺者数の前年同月比は7月に減少に転じるか?

6月の完全失業率は2.9%と5月から0.1ポイント低下した。小数点2位でみると、2.93%で、今年に入って6ヵ月連続で2%台継続となっていて、コロナ禍では比較的落ち着いているとみることもできる。(図表5)。

 

 

6月の有効求人倍率は1.13倍で5月の1.09倍から上昇し20年5月の1.20倍以来の水準になった。景気動向指数の先行系列に採用されている新規求人数は6月の前月比が+4.9%の増加と、5月の同+1.3%に続いて2ヵ月連続増加になった。足元の雇用指標は、コロナ禍にも関わらず改善傾向にある。給付金、協力金の効果などがそれなりに出ているようだ。

 

警察庁の自殺者数は、新型コロナウイルス感染拡大により20年で前年比+4.5%の増加と11年ぶりに悪化した。月次でみると、21年6月は+13.2%と12ヵ月連続増加になった(図表6)。

 

 

21年1月の前年同月比は速報値では減少したが、現在は+3.4%の増加となっている。20年1~6月の6ヵ月の自殺者数の1ヵ月平均は1,596人であったが、20年7~12月では同1,917人に増加した。21年1~6月の1ヵ月平均は1,810人で、20年1~6月よりは多いが、20年7~12月からは減少している。21年1~6月の傾向が続けば、早ければ7月にも前年同月比で自殺者が減少に転じる可能性がある。

6月鉱工業生産指数・前月比+6.2%の上昇。7~9月期は5四半期連続・前期比上昇の見込み

雇用状況の改善には、生産などの持ち直しも寄与していよう。鉱工業生産指数・6月分速報値・前月比は+6.2%と、2ヵ月ぶりに上昇した。季節調整値の水準は99.3で、21年4月の100.0以来の水準になった。前年同月比は+22.6%で4ヵ月連続の上昇となった。6月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち、11業種が前月比上昇、2業種が前月比横ばい、2業種が前月比下降となった。自動車工業や生産用機械工業等が前月の反動増などにより大幅に上昇したことなどで、全体として、20年7月(+6.9%)以来の大幅な上昇率となった。

 

先行きの鉱工業生産指数、7月分を先行き試算値最頻値前月比(▲1.1%)で延長したあと、8月分を製造工業予測指数前月比(+1.7%)で、9月分の前月比を0.0%で延長すると、7~9月期の前期比は+0.6%の上昇になる。また、7月分・8月分を製造工業予測指数前月比(▲1.1%、+1.7%)で、9月分の前月比を0.0%で延長すると、7~9月期の前期比は+1.7%の上昇になる。7~9月期は5四半期連続の前期比上昇になる可能性が大きそうな状況だろう(図表7)。

 

 

また、6月の景気動向指数・一致CIは2ヵ月ぶりの上昇になると予測される。6月分での景気の基調判断は、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」が継続されると予測される。

 

7月ロイター短観は、製造業・業況判断DIが前月から3ポイント改善し、+25となり、18年11月(+26)以来の水準に回復した。自動車などの製造業の生産回復が寄与した。一方、消費の低迷で非製造業は同3ポイント悪化の▲3と、3ヵ月ぶりにマイナスに転じた。東京などへの緊急事態宣言の決定の影響が出た(図表8)。

 

2021年7月の消費者物価指数から2020年基準に変更。コア・前年同月比は再びマイナスに転じるか

総務省は8月20日に発表する2021年7月の消費者物価指数から2020年基準に変更する。5年に1度の改定で、家計調査の購入金額を使用して、新たな財・サービスの出現や普及、嗜好の変化などによる消費構造の変化などに伴い、指数の構成品目を入れ替える。

 

構成品目の入れ替えは、人々の消費行動の変化を反映していると言える。15年基準から20年基準への今回の改定では30品目を調査対象に追加する一方、28品目を廃止する。また、10品目を5品目に統合する。品目数は582品目となる。スマートフォンの普及で購入頻度が減った、固定電話機、携帯型オーディオプレーヤー、ビデオカメラ、電子辞書、写真プリント代などが廃止されている。追加される品目には、タブレット端末や、ドライブレコーダーなどがある。

 

食料の入れ替えをみると、味付け肉、カット野菜、冷凍ぎょうざ、無菌包装米飯、シリアルなど、家事時短化の動きが反映された品目が追加された。豊富な栄養からだに良いとされるアボカドも追加品目だ。一方、皮が厚くて食べづらいからか、グレープフルーツは除外された。なお、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で消費構造が大きき変わった2020年だけを基準にすることを回避するため、今回の改定では2019年と2020年の消費支出の平均を基準としている。

 

2015年基準の6月分の全国消費者物価指数・生鮮食品を除く総合(コア)は前年同月比+0.2%と2ヵ月連続の上昇(図表9)だが、2020年基準だとプラスにならない可能性が大きい。

 

 

下方改定の主因は携帯電話通信料である。21年4月から大幅に下落している携帯電話通信料(6月分の前年同月比は▲27.9%)のウエィトが2015年基準1万分の230から2020年基準では1万分の271が高まる。また、2015年基準では2020年平均で85.4まで低下していた指数水準が2020年は100に戻される。ウエィトの上昇と指数水準のリセットのダブル効果が出る。8月6日午後3時に、2020年基準消費者物価指数の2020年1月から2021年6月分の遡及結果が公表される。

国民に勇気と希望を与えてくれる、日本人アスリートの世界の舞台での活躍…オリンピックや大谷翔平ら

コロナ禍での明るい話題は、日本人アスリートの、国民に勇気と希望を与えてくれる海外での活躍だろう。MLB・エンゼルス大谷翔平が、ベーブ・ルースの再来のような二刀流での大活躍が話題になっている。メジャー4年目で投打ともに開花した。投手として先発ローテーションに入り、打者としては本塁打のタイトルを争っている。今年のオールスターゲームでは二刀流の大谷翔平が話題の中心だった。8月1日時点で大谷は、投手として5勝を挙げ、ホームランは37本でア・リーグ2位のウラジミール・ゲレーロJr.の33本に4本差をつけている。

 

東京オリンピックでの日本選手の活躍も目覚ましいものがある。大会10日目の8月1日現在、日本は金メダル17個、銀メダル5個、銅メダル9個、合計31個のメダルを獲得している。金メダルはこれまでの最高の16個を上回っている。様々なドラマが生まれている。NHK総合で7月23日に放送された開会式の世帯平均視聴率は56.4%(関東地区・ビデオリサーチ調べ)で64年東京大会の61.2%に次ぐ驚異的な数字となった。国民的な関心の高さが示された格好だ。サッカー日本男子は1次リーグを3戦全勝で突破し、準々決勝でニュージーランドにPK戦で勝った。

 

年齢制限が適用されるようになった1992年バルセロナ大会以降、これまで1次リーグを3戦全勝で突破した国は全てメダルを獲得している(図表10)。1968年メキシコ大会の銅メダル以来のメダル獲得が期待される状況だ。

 

 

他の身近なデータも順調に推移しているものが多い。例えば、競馬売上高だ。20年のJRA(日本中央競馬会)の売得金は前年比+3.5%と9年連続の増加になった。21年のG1レースの売得金は3月28日の高松宮記念以降6月27日高松宮記念まで11レース連続で前年比増加している。21年7月25日時点までの累計前年比は+5.1%の増加になっている(図表11)。10年連続上昇に向けて順調に推移している。

 

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『東京五輪、日本勢の金メダル数は過去最高…景気への影響は?』を参照)。

 

(2021年8月2日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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