減り続ける「アメリカの病院数」…それでもコロナに勝ったワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

新型コロナウイルスの流行は、医療機関に様々な影響をもたらしています。感染再拡大により日本では再び医療ひっ迫が叫ばれつつある一方、アメリカでは「病院のグループ化」が加速しているようです。一体何が起きているのでしょうか? 米国在住の医師である筆者が解説します。

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アメリカで進む「病院の減少」と「病院のグループ化」

田舎の開業医の両親に育てられた私。渡米してまず驚いたのは、日本のような開業医が見つからないことでした。アメリカの友人医師に尋ねると、「80年代後半に、多くの個人病院は破産したよ。医療技術が発展して、高価な医療器具を買うことや、高い医療水準についていくことが難しくなって、開業医は取り残されたんだ。そこで、生き残るために病院はグループ化して、コストの削減や保険会社との交渉をするようになったんだよ」と教えてくれました。

 

こうして、合併や買収などのため、全米の病院数は減ってきました。さらに、病院どうしは、それぞれのネットワーク(ヘルスケアシステム、グループ)を作っています。

 

たとえば、私が住んでいるマサチューセッツ州にある、「マスジェネラルブリガム(Mass General Brigham)」は、州最大の病院システムです(※1)。ボストンを拠点とするハーバード医学部の教育病院であるマサチューセッツ総合病院(MGH)やブリガムアンドウィメンズ病院(BWH)など、16の医療機関による非営利の病院ネットワークです。

 

ちなみに、MGHの感染症の責任者であるロシェル・ワレンスキー博士は、バイデン大統領によってCDC(米国疾病予防管理センター)の所長に任命された人物です。

 

※1 https://www.massgeneralbrigham.org/who-we-are/members-affiliations

 

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コロナ第一波を凌いだ、病院ネットワークの「対応力」

去年の4月初旬、ボストンに新型コロナウイルスの第一波が押し寄せはじめたとき、マスジェネラルブリガムが中心になって、州やボストン市の自治体の支援のもと、1週間で「ボストンホープ医療センター」という1,000床の臨時病院を開設しました(※2)。ここは急性期後の新型コロナウイルスの患者と、急性期治療施設での入院を必要としないホームレスの患者を受け入れる施設でした。新型コロナウイルスの感染者が急増するなか、MGHはさらに、ICUの病床を150から300(全病床は約1,000)に増やしました。

 

こうしてマスジェネラルブリガムは、新型コロナウイルスの流行において、2021年3月31日までに、110万を超えるウイルス検査を実施し、約1万9,000人の新型コロナウイルス陽性の入院患者を治療、現在までに40万回以上のワクチンを投与しました。さらに、新型コロナウイルスの新しい検査や治療、予防を目的とした500を超える新たな研究と120を超える臨床試験の立ち上げを支援してきました。これらの研究活動は、400以上の賞を受賞しています。

 

ところで、CARES法医療機関救済基金で、米国保健社会福祉省(HHS)は、新型コロナウイルス対策の最前線にいる病院や医療機関などに1,780億ドルを分配しています(※3)。そのうち、マスジェネラルブリガムは、2021年3月31日までに7億7,800万ドルの救済基金を受け取りました。2020年の6ヵ月間では、営業外損失9億300万ドルを含め、全体で10億ドルの損失。ところが、2021年3月31日に終了した6ヵ月間には、16億ドルの営業外利益を含め、全体で20億ドルの利益が報告されました(※4)

 

現在マスジェネラルブリガムは、新しい外来診療所や手術センターの拡大を目指しています。

 

※2 https://www.massgeneral.org/news/coronavirus/boston-hope-medical-center-opens

 

※3 https://www.hhs.gov/coronavirus/cares-act-provider-relief-fund/index.html

 

※4 https://www.massgeneralbrigham.org/newsroom/press-releases/mass-general-brigham-reports-second-quarter-2021-financial-results

 

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コロナ流行下、「長年のライバル病院たち」が一致団結

「ベスイスラエル・ラヘイ・ヘルス(Beth Israel Lahey Health)」は、ハーバード医学部の教育病院であり、マサチューセッツ州で2番目に大きい病院システムです。去年4月はじめ、長年のライバルであるマスジェネラルブリガムと一緒に協力し、患者の収容先を調整するためのグループを立ち上げました。

 

さらにボストン大学医学部の教育病院であるボストン医療センターと、タフツ大学医学部の教育病院であるタフツ医療センターも、お互いに協力することに同意しました。

 

そのためボストンでは、新型コロナウイルスの患者が1つの病院に集中してしまうことはありませんでした。

 

ボストン大学のニュースは、「レッドソックスとヤンキースと他のチームが、共通の目的のために結束しあうのに似ている」と評しました。

 

ベスイスラエル・ラヘイ・ヘルスのケビン・タブ会長は、「私たちは一体となって働いています」「現時点では、私たち全員が1つの大きな病院システムだと思っています」と述べています。こうして各病院のリーダーは、週に数回の会合を重ね、新型コロナウイルスの流行に対して協力して取り組み、危機を乗り越えました。

 

※5 https://www.wbur.org/commonhealth/2020/04/09/boston-hospitals-rivals-capacity-joint

地域医療のために「グループ化」を選択した診療所

ところで、多くの米国人は、プライマリーケアという主治医を持っています。健康診断や予防接種、調子が悪くなったときの受診、定期的な慢性疾患のフォローなどはプライマリーケアが担当し、必要に応じて専門医を紹介してくれます。ただし米国は、日本のようにどのクリニックにも受診できるわけではありません。あらかじめ、自分の加入する保険プランが適用される診療所や医師を探し、プライマリーケアに設定しておく必要があります。

 

私の自宅の近くに、アトリウスヘルス(Atrius Health)というプライマリーケアを行うクリニックがあります。

 

ボストングローブによると、アトリウスヘルスは、約715人の医師と、その医師らが医療サービスを提供する約74万5,000人の患者で構成されています。ただし、過去2年間で約100人の医師を失っており、特に新型コロナウイルスが流行するなかでは、新しい患者を引き付けるのに苦労しました。パンデミックが始まった当初、日常的な医療のほとんどがキャンセルされたため、アトリウスヘルスの収益は急落し、1,100人の医師が一時解雇となりました(※6)

 

そんななか、アトリウスヘルスは、オプタム(Optum)の傘下に入ることで合意に達しました。

 

米国最大の医療保険会社ユナイテッド・ヘルス(United Health Group)の一部であるオプタムは、ミネソタ州エデンプレーリーに本社を持つ、世界150ヵ国で事業を展開する医療サービスおよびイノベーション企業です。ボストングローブによると、オプタムのネットワークには、全米に5万3,000人を超える医師が登録されています。

 

オプタムが実際にどのような事業を行っているかというと、たとえば現在、新しい「Optum Virtual Care」と呼んでいる製品を販売しており、全米50州すべてにテレヘルスを拡大しています。この取り組みは、身体ケア、バーチャルケア(オンライン診療サービス)、在宅ケア、行動ケアを統合することを目的としています(※7)

 

※6 https://www.bostonglobe.com/2021/03/02/business/physician-group-atrius-plans-acquisition-by-optum/

グループ化により、病院の競争力アップを期待

ここで「製品」という言葉に疑問に感じられた読者がいらっしゃるかもしれません。実は、オプタムは営利を目的とした病院(For-profit Hospital)です。一方、マスジェネラルブリガムやベスイスラエル・ラヘイ・ヘルスは、非営利目的の病院です。全米病院協会(AHA2021)によると、米国には6,090の病院がありますが、連邦政府が運営する病院以外の5,141の病院のうち、2,946は非営利病院、1,233は営利病院です(※8)

 

ジョージワシントン大学ビジネススクールの情報によると、営利目的の病院と非営利目的の病院には、以下のような違いがあります(※9)

 

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1)所有権と税制

非営利目的の病院は、米国の内国歳入庁(IRS)から慈善団体とみなされ、連邦所得税や州・地方の固定資産税を支払う必要がありません。一方、営利目的の病院は、投資家または上場企業の株主によって所有されています。伝統的に、営利目的の病院は南部の州に集中していましたが、2000年代初頭の経済破綻をきっかけに、営利企業による非営利病院の買収が進みました。

 

2)サービスを提供する対象

当然のことながら、非営利病院は平均して、営利病院よりも多くの無報酬のケアを提供しています。ところが予想外に、営利病院は低所得者層にサービスを提供する傾向があり、非営利病院は貧困が少なく、所得が高く、無保険の患者が少ない地域にある傾向があります。

 

3)支出

非営利病院と営利病院における顕著な違いの1つは、営利病院が広告とマーケティングにより多くのリソースを割り当てていることです。ただし、一部の非営利病院でも、市場で競争を認識し、マーケティングにお金を費やしています。

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今後、アトリウスヘルスは、マスジェネラルブリガムやベスイスラエル・ラヘイ・ヘルスとより積極的に競争できるようになると考えられています。

 

※7 https://www.forbes.com/sites/brucejapsen/2021/04/19/unitedhealths-optum-to-broaden-telehealth-offerings-in-all-50-states/?sh=5169d0d1747d

 

※8 https://www.aha.org/statistics/fast-facts-us-hospitals

 

※9 https://healthcaremba.gwu.edu/blog/profit-vs-nonprofit-hospital-administration/

 

 

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大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

 

 

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星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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