(画像はイメージです/PIXTA)

手術前の待合室。恐怖と緊張に襲われる場面だ。人はどのようにその感情と向き合い、乗り越えていくのか。待合室で抱く感情や及んだ行動、その後の展開を小説形式で描く本連載。第2回目は、伊藤裕太さん(仮名)21歳が高校時代に体験した出来事を紹介する。

待合室で恐怖に打ち震えていた…

「手術ってことは、目にメスを入れたんだよね? メスを。痛くなかった?」

 

隣で高梨くんが興味深そうに尋ねてきた。

 

「手術自体は痛くないかな。10分くらいで終わっちゃうから」

 

「そうなの? むしろ麻酔のほうが痛いとか?」

 

「いや、麻酔も点眼麻酔だから。痛いのはむしろ終わったあとかな。夜寝るぐらいまではしばらく痛かった」

 

「そうなんだぁ。怖くもなかった? 緊張とかしたよね?」

 

「う~ん、待合室で待ってるときが1番緊張したかな。いろいろ考えちゃうよね」

 

もちろん怖かったに決まっている。乗り越えられたのは、彼女の存在があったからに他ならない。待合室で恐怖に打ち震えながらも、好きな人を思い、僕は手術台に向かったのだ。

 

「だよねぇ。え、お金はどうしたの?」

 

「いくらか貯金があったからさ。足りないぶんは短期のバイトをしたんだよ。引っ越し屋で。きつかったなぁ」

 

真夏の肉体労働の辛かったこと……。でも、目標があるから頑張れた。今となってはいい思い出だ。

 

「すごいなぁ、伊藤くんは……」

 

高梨くんが深く溜息を漏らす。いたく感心している様子だ。夏休みを終えて、彼とのあいだに随分と人間的な差ができてしまったかもしれないと感じる。

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