(画像はイメージです/PIXTA)

手術前の待合室。恐怖と緊張に襲われる場面だ。人はどのようにその感情と向き合い、乗り越えていくのか。待合室で抱く感情や及んだ行動、その後の展開を小説形式で描く本連載。第2回目は、伊藤裕太さん(仮名)21歳が高校時代に体験した出来事を紹介する。

「目が小さくて可愛い」と言われて喜びは感じなかった

浅井さんとは今年4月に初めて同じクラスになり、その笑顔に惹かれた。口を大きく開けてニカッと笑う様子は、僕に対して心を開いてくれているようであり、それに応えなければという意識を芽生えさせた。その思いが次第に好意に変わっていった。僕にとって人生で初めてと言っていい、恋の始まりだった。

 

それがなぜ、僕にメガネをやめさせる理由となるのか……。学校でのある休み時間だった。席に座っていた僕の視界を遮るように、彼女がパッと姿を現した。そして、僕の顔を見て、少しずつ顔を寄せて言ったのだ。

 

「伊藤くんて、目が小さくて可愛いね」

 

可愛いと言われて、喜びは感じなかった。目が小さいことを指摘されたことに、ショックを受けた。僕は強度近視でかなり視力が低く、分厚いメガネをかけていた。レンズの屈折率のせいで、外から見るとかなり目が小さく映るのだ。もともと目が小さいほうではあるが、メガネの影響によるところが大きい。

 

……といった言葉が頭のなかを駆け巡ったのだが、何ひとつ口から出ず、アワアワと狼狽えているうちに彼女は笑って去ってしまった。不甲斐ない自分を嘆き、心機一転を期して、僕はメガネをやめる決意をしたのだ。

 

コンタクトレンズにする選択肢もあったが、目のなかに異物を入れることにどうしても抵抗があった。家に帰ってレーシックについて調べてみると、18歳以上であれば、学生でも親の同意のもと手術が可能であると知り、夏休みのあいだに受ける計画を立てたのだった。

次ページ待合室で恐怖に打ち震えていた…
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