子を飛び越して孫に不動産を贈与することはできるのか
結論から申しますと、孫への不動産贈与は可能です。しかし、Tさんのお孫さんは未成年ですから、親権者が法定代理人として同意または代理する必要があります。Tさんと親である娘さんが贈与契約書を交わすことになるので、こっそりというわけにはいきません。
しかも、子である娘さんを飛び越して贈与するのですから、お孫さんと娘さんは利益相反関係になります。場合によっては、特別代理人を選任し、その人と贈与契約を結ばなければいけません。特別代理人の選任は、その孫の住所地がある家庭裁判所に申し立てます。 孫への不動産贈与は不可能ではありませんが、Tさんが思うほど簡単でもありません。
では、相続はどうでしょう? 相続権には、相続順位という優先順位があります。配偶者は常に法定相続人となりますが、Tさんのご主人はすでに他界されています。
相続の第1順位は、Tさんのお子さんである娘さんとその兄弟姉妹になります。Tさんのお子さんがご存命なら、孫は法定相続人にはなれません。
では、お孫さんに相続させることは不可能なのでしょうか? 以下の場合、孫が祖父母の遺産を相続することは可能となります。
1.遺言書で遺贈する
一般的な遺言書には、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」があります。「自筆証書遺言」はその名の通り、自筆に限られます※。「秘密証書遺言」は自筆、代筆、PCやワープロでも作成できますが、2名以上の証人が必要です。いずれも法定通りに書かれていないと無効となってしまいます。
※財産目録はPCやワープロでも問題なし
「公正証書遺言」は公証役場で公証人が遺言者の遺言内容を聞き書きし、作成した遺言書を公証役場で保管します。こちらも証人2名の立会いが必要ですが、法定通り作成できるので、安心な方法といえるでしょう。
また、孫は法定相続人ではないので、相続ではなく「遺贈」となります。たとえば、Tさんが娘さんの長男に自宅を遺贈する場合、遺言書の書き方例は以下のようになります。
遺言者〇山〇子は次の通り遺言する。
第1条 遺言者は、長女〇山〇実の長男〇山〇太(平成〇年〇月〇日生)に次の財産を遺贈する。
(1)土地
所 在 〇市〇町〇丁目
地 番 〇番〇
地 目 宅地
地 籍 〇.〇平米
(2)建物
所 在 〇市〇町〇丁目〇番地〇号
家屋番号 〇番〇
種 類 居宅
構 造 木造2階建
床面積 1階 〇.〇平米 2階 〇.〇平米
~中略※ほかにも遺産や法定相続人がある場合は第2条、第3条……と続く~
令和〇年〇月〇日
〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号
〇山 〇子(署名) 印
ただし、各法定相続人には民法で保障された「遺留分」があります。他の相続人の遺留分を侵害するくらい多くの遺産を孫に与えると、裁判沙汰になりかねません。
2.孫が代襲相続人となる
万が一、相続発生時にお子さんが亡くなっている場合は、その子ども、つまり孫が代襲相続人となります。例えば、長女の相続割合が1/2だとして、長女の子ども全員でその1/2を等分にして分けあいます。
その相続財産が不動産の場合でも、法定相続分は等分です。代襲相続人の孫たちの選択肢としては、その不動産を「売却&現金化し分ける」「所有権を分割または共有する」「相続した孫が兄弟姉妹に代償金を払う」「相続放棄する」といった方法が考えられます。
3.養子縁組する
孫と養子縁組すれば、その孫が「子」として法定相続権を得ます。子には実子だけでなく、養子も含まれるからです。養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」の2種類があります。
「普通養子縁組」は養子が実親との親子関係を維持したまま養親の養子になり、養親だけでなく実親の相続もできます。ただし、未成年の場合は家庭裁判所の認可が必要です。
「特別養子縁組」は経済的理由、虐待や育児放棄などで実親が養育にあたわないとされた場合です。養子は15歳未満、養親は25歳以上の既婚者に限られ、半年間の試験養育を経て、家庭裁判所の審判により養親の養子になります。実親との親子関係はなくなります。
2の「孫が代襲相続人となる」は、意図的にできるものではありません。1の「遺言書で遺贈する」と3の「養子縁組する」は、孫に対して祖父母の意思で行うことができますが、相続税対策という視点からすると、ひとつ見逃せない重要な問題があります。
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