慢性硬膜下血腫は比較的簡単に治療可能だが…
慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、頭部外傷…。これらの疾患は手術によって良くなることが多いのです。そのため、診断を早く、正しくつけなければなりません。
診断のためには、病院へ来られるまでの病歴(頭部の打撲があったかどうか、どんな症状がいつから始まったか、進行の速度はどうか、頭痛を伴うか、歩行障害があるか、尿失禁があるか)が重要になります。また、頭部のX線CTやMRI、脳槽シンチグラフィーなどの検査が参考になります。
慢性硬膜下血腫は、血腫のある部位の頭蓋骨に直径1センチほどの穴を開けて血腫を洗い出す比較的簡単な手術で治ることが多いといえます。それだけに、アルツハイマー病などと誤診してはいけない病気です。
高齢者は僅かな衝撃で静脈が切れてしまうことも
若い人では頭部を打撲したことを覚えていることが多いのですが、高齢者では脳が萎縮しており、静脈が伸びていることが多いので、自分で覚えていないくらいの僅かの衝撃でも静脈が切れます。
最初は小出血であったものが1~3ヵ月くらいかかって徐々に大きな慢性硬膜下血腫になっていくのです。一側だけでなく、両側に起こることもあります。
ただ、慢性硬膜下血腫の認知機能の低下を厳密に認知症と呼んでよいか否かについては議論があります。認知症でなく、せん妄であるとの異論もありますが、第一部表1での定義では広く認知症と捉えて良いと思います。
正常圧水頭症は髄液が過剰に貯留する高齢者の疾患で、認知症に加えて、歩行障害や尿失禁が現れます。脳の中にある側脳室が大きくなっており、脳槽シンチグラフィーやメトリザマイドCTシステルノグラフィーで、アイソトープや造影剤が脳室に残るのが特徴です。
場合によっては手術後も認知機能が改善しないことも…
診断が決まれば、腰椎穿刺により髄液を20~30ml除去する処置をすると、認知機能や歩行が改善されることがあります。そのような場合、側脳室と腹腔(脳室-腹腔シャント術)、腰部髄液腔と腹腔(腰椎-腹腔シャント術)などの間をチューブでつないで、頭蓋内の余分の髄液を腹腔に誘導する手術をします。
脳腫瘍のうち、髄膜腫のような良性腫瘍は手術で切除することによって認知機能が改善することがあります。しかし、悪性腫瘍の場合はうまく行かないことも多くあります。いずれにしても、脳神経外科の医師と相談して適切な処置をとってもらうことが大切です。
頭部の外傷後に、認知機能が低下することがあります。そのため、外傷を受けたら、できるだけ早期に適切な処置をして、脳機能の障害を最小限に留めることが必要です。
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中村 重信
京都市出身、1963年 京都大学医学部卒。1990~2002年広島大学医学部内科学第三教授、2002年~ 広島大学名誉教授/洛和会京都新薬開発支援センター所長(現在顧問)。2005年~ 公益社団法人「認知症の人と家族の会」顧問。主な著書:ぼけの診療室(紀伊国屋書店、1990)、痴呆疾患の診療ガイドライン(ワールドプランニング、2003)、老年医学への招待(南山堂、2010)、私たちは認知症にどう立ち向かっていけばよいのだろうか(南山堂、2013)受賞:日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞「功労賞」(2017)
梶川 博
広島県広島市出身。1957年修道高等学校卒業、1963年京都大学医学部卒。1964聖路加国際病院でインタ−ン修了、医師国家試験合格、アメリカ合衆国臨床医学留学のためのECFMG試験合格、1968年京都大学大学院修了(脳神経外科学)医学博士。1970年広島大学第二外科・脳神経外科(助手)、1975年大阪医科大学第一外科・脳神経外科(講師、助教授)。1976年ニューヨーク モンテフィオーレ病院神経病理学部門(平野朝雄教授)留学。1980年梶川脳神経外科病院(現医療法人翠清会・翠清会梶川病院、介護老人保健施設、地域包括支援センター)開設、現在会長。医学博士。1985年槇殿賞(広島医学会会頭表彰)、1996年日本医師会最高優功賞。日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本脳神経外科救急学会・日本神経学会・日本認知症学会会員、広島県難病指定医、広島県「もの忘れ・認知症相談医(オレンジドクター)、日本医師会&広島県医師会、日本医療法人協会&全日本病院協会広島県支部所属。 メールアドレス hkajikawa@suiseikai.jp
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