「取締役解任の訴え」の要件をめぐる「否決された議案の取消し」の訴訟…最高裁の判断を弁護士が解説

「取締役解任の訴え」の要件をめぐる「否決された議案の取消し」の訴訟…最高裁の判断を弁護士が解説
(写真はイメージです/PIXTA)

本記事では、日本大学教授で弁護士の松嶋隆弘氏の『実例から学ぶ 同族会社法務トラブル解決集』(株式会社ぎょうせい)より一部を抜粋・編集し、会社法854条の「取締役解任の訴え」の要件をめぐる「否決された議案の取消し」の訴訟について、問題の背景と最高裁判所の判断を解説していきます。

「否決決議」の「取消し」を求める訴えは認められるか

本Caseの元となった、最判平成28年3月4日民集70巻3号827頁をみてみよう。第1審(福岡地判平成26年11月28日民集70巻3号838頁)は、

 

「本件株主総会におけるXらの取締役解任決議が取り消されるか否かによって、本件取締役解任の訴えは、その要件(株主総会で取締役の解任議案が否決されたこと)を具備するか否かが左右される関係にある。

 

Xらは、本件取締役解任の訴えが要件を欠くにもかかわらず提起されたものであるとして、本訴を提起しているのであるから、本件において訴えの利益は認められる」

 

旨判示した上、決議に瑕疵があるとして、本件決議を取り消した。これに対し、控訴審である原審(福岡高判平成27年4月22日民集70巻3号843頁)及び上告審である前掲最判平成28年3月4日は、訴えの利益を欠くとする。

 

前掲最判平成28年3月4日の判示は、下記のとおりである。「会社法は、会社の組織に関する訴えについての諸規定を置き(同法828条以下)、瑕疵のある株主総会等の決議についても、その決議の日から3箇月以内に限って訴えをもって取消しを請求できる旨規定して法律関係の早期安定を図り(同法831条)、併せて、当該訴えにおける被告、認容判決の効力が及ぶ者の範囲、判決の効力等も規定している(同法834条から839条まで)。

 

このような規定は、株主総会等の決議によって、新たな法律関係が生ずることを前提とするものである。

 

しかるところ、一般に、ある議案を否決する株主総会等の決議によって新たな法律関係が生ずることはないし、当該決議を取り消すことによって新たな法律関係が生ずるものでもないから、ある議案を否決する株主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であると解するのが相当である。

 

このことは、当該議案が役員を解任する旨のものであった場合でも異なるものではない。」

検討

(1)否決決議が法律効果の発生の要件とされている場面

 

否決決議を取り消したとしても決議が可決されるわけではないという素朴な発想からして、否決決議を取り消す実益はなく、訴えの利益なしという最高裁及び原審の立場は、大方の支持を得られることであろう。ただ、悩ましいのは、否決決議が法律効果の発生の要件とされているいくつかの場面があり得ることである。

 

(i)一つは、本Caseのような取締役の解任の訴えの場合である。(ii)もう一つは、株主提案権の場合である。

 

すなわち、会社法304条但書は、「当該議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合」に、株主が株主総会において議案提案権を行使できない旨規定しており、賛成を得られなかった否決決議を取り消せば、かかる制約が外れうるのである。

 

しかし、(i)(ii)のいずれも、否決の決議それ自体から当該法律効果が発生するのではなく、他の法的な定めにおいて議案が否決されることを要件として法的効果を発生させる仕組みであると理解すべきである。

 

この点に関連し、前掲最判平成28年3月4日における千葉勝美裁判官は、効果の発生を争うのであれば、当該定めの適用においては、取消事由となるような手続上の瑕疵のある否決の決議がされても、それは効果発生要件としての否決の決議には当たらない、あるいは否決されたとみるべきではない等といった合理的で柔軟な解釈をして適用を否定し、法律効果の発生を否定するといった処理が可能である旨述べており、妥当な認識であると解される。

 

(2)本Caseについて

 

前記のとおり、本件で本来争われるべきは、取締役の解任の訴えにおけるaの要件の存否であるはずである。それを避け、否決決議の取消しにより、bの要件外しを図った戦術は、奇策であるも、正攻法として評価するわけにはいくまい。かかる戦術を否定した最高裁の態度は正当であったといえよう。

 

 

松嶋 隆弘

日本大学教授

弁護士

 

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