「取締役解任の訴え」の要件をめぐる「否決された議案の取消し」の訴訟…最高裁の判断を弁護士が解説

「取締役解任の訴え」の要件をめぐる「否決された議案の取消し」の訴訟…最高裁の判断を弁護士が解説
(写真はイメージです/PIXTA)

本記事では、日本大学教授で弁護士の松嶋隆弘氏の『実例から学ぶ 同族会社法務トラブル解決集』(株式会社ぎょうせい)より一部を抜粋・編集し、会社法854条の「取締役解任の訴え」の要件をめぐる「否決された議案の取消し」の訴訟について、問題の背景と最高裁判所の判断を解説していきます。

議案を否決する株主総会決議の取消しと訴えの利益

■資本多数決で決着ならず、取締役の解任の訴えをめぐる攻防

 

1.Yは、レストランの経営及び運営管理等を目的とする株式会社であり、非取締役会設置会社である。Yの株主総数は、Z、X1及びX2の3名であり、いずれも取締役であり、代表権を有している。彼らの持株数は、次のとおりである。

 

・Z……150株

・X1……75株

・X2……75株

 

2.Zは、自己単独で平成26年5月19日、下記のとおり、臨時株主総会を招集した(本件株主総会)。

 

・日時……平成26年5月26日午前10時

・場所……Y本店

・議題……1.X1の取締役解任について

     2.X2の取締役解任について

     3.その他

 

Yは、本件株主総会においてX1及びX2の取締役解任の件を、いずれも否決する決議をした。

 

3.Zは、これを受け、X1及びX2の取締役解任の訴えを提起した(本件取締役解任の訴え)。

 

4.これに対し、X1及びX2は、Yを被告として、本件株主総会の取消しを求める訴えを提起した(本件訴え)。Yは、議案を否決した決議からは、取消訴訟によって変動させるべき法律関係は生じていないから、本件訴えには訴えの利益はないと主張している。

はじめに

(1)取締役の解任の訴え株式会社の取締役の選任・解任に関する権限は、株主総会が有するのが原則であるところ(会社法329-1、339-1)、会社法は、少数派株主保護の観点から、これに加え、所定の要件を満たす株主にも、取締役の解任の「訴え」を提起することができる旨規定する(取締役の解任の訴え:会社法854)。

 

同条が、取締役の解任の訴えの要件として掲げるのは、

 

a.取締役の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったこと及び

b.それにもかかわらず当該取締役を解任する旨の議案が株主総会において否決されたこと

 

の2つである。

 

ここで注意しておくべきは、bの要件の建付けが、第1ラウンドとして、株主総会の場で、解任決議が否決されることが、第2ラウンドである裁判所への取締役の解任の訴えの提起の要件とされていることである。

 

すなわち、第1ラウンドで資本多数決により負けた場合でも、裁判所における第2ラウンドで、取締役の解任を争うことが認められ、第2ラウンドで争点となるのは、資本多数決ではなく、Justiceの観点から定められたaの要件の有無なのである。

 

(2)本Caseの特徴

 

本CaseにおけるZ対X1、X2の対立構図は、150株対150株と同数のため、資本多数決で決着をつけることができず、膠着状態である。

 

そのような折、Zは、X1及びX2を排除すべく、X1及びX2の解任を議題とする臨時株主総会を招集し、解任決議を意図的に否決させ、bの要件を具備した上、裁判所に対し、取締役の解任の訴えを提起した。

 

これに対し、X1及びX2は、aの要件を争うのではなく、本件株主総会の取消しを求める訴えを提起し、前記否決決議を取り消し、bの要件の具備を消そうと争っているのである。

 

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松嶋 隆弘

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