(写真はイメージです/PIXTA)

本記事では、日本大学教授で弁護士の松嶋隆弘氏の『実例から学ぶ 同族会社法務トラブル解決集』(株式会社ぎょうせい)より一部を抜粋・編集し、2代目と中継ぎ社長で株式譲渡の有効性を争った事例から、生前の事業承継対策の大切さについて解説します。

2代目社長撃沈…「事業継承対策」の失敗

■Case

 

1.Y社は、電子機器の製造販売・輸出入等を事業目的とした資本金1,000万円の株式会社(非公開会社)である。Y社は、故Aにより設立された会社であり、その経緯は、次のとおりである。

※定款(法人の目的・組織・活動・構成員・業務執行などについての基本規約・基本規則のこと)ですべての株式に譲渡制限が設けられている会社。閉鎖会社とも呼ばれる

 

2.Aは、もともとワイシャツの縫製業をしていたところ、甥であるX1の進言を容れ、昭和55年8月、資本金1,000万円を拠出して電子機器の製造販売等を目的としたY社を設立し、自ら代表取締役に就任するとともに、息子であるBを取締役に就任させて、Bを専ら電子機器関係の技術者として育成しようとした。

 

X1は、当時、C社に勤務していたが、主に土曜、日曜にY社事務所に出勤し、Y社業務を処理するとともに、Bの指導に当たった。また、X1と同様に電子機器の技術を有するX2も、X1の依頼を受け、X1と同様に時折土曜、日曜にY社の事務所に出勤してY社の業務の手伝いをしていた。

 

3.Y社の全株式を有していたAは、その当時、BにY社の経営の全般を任せることができる状況ではなかったため、X1にY社の将来の経営を委ねる旨の考えをX1に対し表明していた。

 

かような折、昭和58年8月にAが死亡し、Y社の全株式はAの子であるBが相続により取得することになった。そしてBは、その後、Y社の代表取締役に就任し、その旨の登記を了した。

 

4.X1は、Bに対し、(1)前記のAの生前の意思の趣旨、及び(2)X1及びX2がY社の主たる業務を担っていることを理由として、「Y社を一緒にやっていくならば、Y社の経営権及び株式をX1らに譲渡すべきであること、それがいやであれば、X1はその発明に係る権利を有したまま独立して別会社をつくる用意があること」を告げ、Bの判断を促した。

 

5.これを受け、昭和59年11月ごろ、Bは、X1らと一緒にY社を経営していくこととし、X1の前記の申出を容れてY社の発行済株式2万株のうち、1万2,000株をX1に、3,000株をX2にそれぞれ無償で譲渡することに同意した。そこで、X1は、それまで勤務していたC社を退職し、Y社の運営に精力を注ぐこととした。

 

6.そして、昭和60年8月、Y社では定時株主総会(甲総会)を開催し、B、X1及びX2の全株主が出席した上、取締役にB、X1らを、それぞれ選任した。

 

7.しかしながら、Bは、X1及びX2に対する株式譲渡は、強迫によるもので無効であり、Y社の株主はBのみであるとして、同年9月に定時株主総会(乙総会)を開催し、取締役にB、Dらを、それぞれ選任した(乙総会で選任された役員に、X1及びX2は含まれていない)。

 

8.これに対し、Xらは、乙総会が不存在であり、XらがY社の取締役の地位を有することの確認を求める訴えを提起した。第1審(東京地方裁判所昭和63.3.3、金融・商事判例949号17頁)は、強迫による株式譲渡の無効の主張を認めず、Xらの主張を認容。

 

Y社は控訴したものの、控訴棄却(原審:東京高等裁判所平成元.4.26金融・商事判例949号15頁)。そこでY社は上告した。その理由として、株式譲渡に際し、定款所定の取締役会による承認がなされていないこと等が挙げられていた。

 

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