会社法における「重要な財産の処分」の「重要」とはどのようなことをいうのか【弁護士が事例で解説】

会社法における「重要な財産の処分」の「重要」とはどのようなことをいうのか【弁護士が事例で解説】
(写真はイメージです/PIXTA)

本記事では、日本大学教授で弁護士の松嶋隆弘氏の『実例から学ぶ 同族会社法務トラブル解決集』(株式会社ぎょうせい)より一部を抜粋・編集し、社長が解職直前に実施した株式譲渡について、譲渡の有効性を巡り紛争に発展した事例を解説します。

株式譲渡は「会社のため」か「梯子を外された復讐」か

1.はじめに

 

取締役会設置会社(会社法2七)において、取締役会は、株式会社の業務執行の決定権限を有する(同法362-1)。会社法は、これに加え、重要な業務執行の決定については、代表取締役以下の下部機関に委任することができないとして、重要な業務執行の決定につき、いくつかを例示列挙する(同法362-4各号)。

 

重要な業務執行については、取締役全員の協議により意思決定がなされることを、会社法は期待しているのである。本件で争点とされる「重要な財産の処分」も、その1つである(同法362-4-1)。

 

ただ、「重要」とは、規範的・抽象的概念であり、本Caseでは、この点が争点とされている。

 

2.検討

 

(1)この問題に関し、リーディング・ケースとされるのが、本Caseの素材とされた最判平成6年1月20日民集48巻1号1頁であり、下記のとおり判示されている。

 

「重要な財産の処分に該当するかどうかは、1.当該財産の価額、2.その会社の総資産に占める割合、3.当該財産の保有目的、4.処分行為の態様及び5.会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解するのが相当である」

 

これだけをみると、意味は全く明らかにならないため、原審(東京高判平成4年12月15日金判943号7頁)と対比した上で、最高裁が掲げた個々の要素をみてみる必要がある。

 

原審は、下記のとおり本件株式の譲渡は、「重要な財産の処分」に該当しないと考えていた。

 

「本件各株式は、Xの帳簿価格によると7,800万円であり、Xにとって価格的には相当な財産であるといえるが、他方、Xは、本件各株式によって甲から配当を受領していただけであって、Xの営業を維持発展させるためにどうしても保有しなければならない財産であるとまで認めることはできず、本件各株式を売却してもその代価を取得できることや本件各株式の帳簿価格とXの資産額との対比などをあわせ考えると、本件株式譲渡をもって………「重要ナル財産ノ処分」ということはできない。」

 

これに対し、最高裁は、「本件株式の譲渡は同号にいう重要な財産の処分に当たらないとすることはできない」と判断した。

 

ここで、原審と最高裁を対比すると、図表1のとおりである(番号は、判旨に付したものと対応)。

 

[図表1]原審と最高裁の対比(筆者作成)
[図表1]原審と最高裁の対比(筆者作成)

 

(2)さらに、最高裁は、補強として、Xが保有する甲の持株比率(本件株式は甲の発行済み株式の7.56パーセント)、甲が保有するXの持株比率(甲はXの発行済み株式の17.86パーセントを保有)等からすると、本件株式の譲渡はXと甲との関係に影響を与え、Xにとって相当な重要性を有する旨判示するとともに、過去の取締役会等で、株式譲渡につき取締役会に付議されたことがある前例を挙げる。

 

前者は、3に相当し、本件株式の保有が単なる投資目的でないことを示し、後者は、5に相当する。

 

(3)「重要な財産の処分」の判断基準として、かねてより実務では、当該財産の価額が会社の総資産に占める割合につき、会社の貸借対照表上の総資産額の100分の1を目安にすべきとか、会社の総資産の0.1〜0.9パーセントを目安にすべきである等との指摘がなされてきた。

 

しかしながら、最高裁は、必ずしも、数字のみを決定的基準とは捉えていない。原審が、どちらかというと数量的判断を重視しているのに対し、最高裁は、むしろ、前記3、4、5のような、非数量的要素を重視している。このあたりに、本件が、非公開の中小会社における紛争であることの影響が現れている。

 

3.Caseの検討

 

本Caseは、乙家が支配していたXの支配をめぐる乙家とX経営陣(B)の争いであるところ、その後、乙家とBが和解したため、乙家筋のAからすると、「2階に上がったら、梯子を外された」状態になってしまった。

 

本件株式譲渡は、Aからしたら、解職直前の、Xの主要資産である甲の切離しであり(もっとも、AとYとの関係は、記録上不明であり、断言はできない)、本件訴えは、そうはさせまいとするBの対抗手段といったところか。

 

いずれにせよ、一見数字の問題とされがちな本Caseの背後にも、こうしたドロドロした事情が存在している。

 

 

松嶋 隆弘

日本大学教授

弁護士

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