2021年5月分鉱工業生産指数・速報値について

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

鉱工業生産指数・前月比▲5.9%と3ヵ月ぶりの低下。半導体不足響く

 

経済産業省の生産指数・基調判断は「生産は持ち直している」で据え置き

 

4~6月期は生産予測指数等から見て4四半期連続・前期比上昇の見込み

 

5月分一致CI前月差はマイナスが予測されるが、基調判断は「改善」が継続

 

 

(鉱工業生産)

 

●鉱工業生産指数・5月分速報値・前月比は▲5.9%と、3ヵ月ぶりに低下した。季節調整値の水準は94.1で、20年12月の94.0以来の水準になった。前年同月比は+22.0%で3ヵ月連続の上昇となった。

 

●5月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち、13業種が前月比低下、2業種が前月比上昇となった。自動車工業が前月比▲19.4%の大幅な低下で、低下寄与が最も大きかった。自動車は世界的な半導体不足の影響を受けて大幅な生産減になったとみられる。半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置や金属加工機械等で前月の生産増からの反動減がみられた生産用機械工業は前月比▲5.9%と2ヵ月ぶりの低下となった。

 

●経済産業省の基調判断は20年4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」だったが、6月分で、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。7月分で下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。8月分では、「生産は持ち直している」に上方修正された。その後、今回の21年5月分まで、「生産は持ち直している」で据え置きになっている。製造工業予測指数や在庫動向などからは、先行きの堅調さが示唆されている。5月分の鉱工業生産指数の前月比▲5.9%の低下だけでは判断しなかったとみられる。

 

●先月発表された製造工業予測指数5月分は前月比▲1.7%低下する見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、5月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲2.5%低下になる見込みであった。90%の確率に収まる範囲は▲4.4%~▲0.6%の見込みであった。実際には、鉱工業生産指数の前月比が▲5.9%の低下になったが、これは製造工業予測指数や、試算値の下限を大きく下回る減少率である。

 

●5月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比▲4.7%と3ヵ月ぶりの低下になった。前年同月比は+22.5%で3ヵ月連続の上昇となった。

 

●5月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲1.7%と2ヵ月連続の低下になった。前年同月比は▲9.3%と13ヵ月連続の低下となった。

 

●5月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比+0.3%で、2ヵ月ぶりの上昇になった。前年同月比は▲28.4%と8ヵ月連続の低下となった。

 

●鉱工業全体の在庫循環の動きをチェックするために、縦軸に鉱工業在庫指数・前年比、横軸に鉱工業出荷指数・前年比をとった在庫サイクル図をつくると、20年7~9月期までは「在庫調整局面」の状態にあったが、20年10~12月期、21年1~3月期では「意図せざる在庫減局面」になっていた。4~5月分では在庫の前年同月比▲9.3%、出荷が前年の反動もあり、前年同月比+19.1%と2ケタの伸び率になり、「在庫積み増し局面」に入った。

 

 

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると6月分は前月比+9.1%の上昇、7月分は前月比▲1.4%の低下の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、6月分の前月比は先行き試算値最頻値で+5.4%になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+3.6%~+7.2%になっている。

 

●先行きの鉱工業生産指数、6月分を先行き試算値最頻値前月比(+5.4%)で延長すると、4~6月期の前期比は+1.2%の上昇になる。また6月分を製造工業予測指数前月比(+9.1%)で延長すると、4~6月期の前期比は+2.4%の上昇になる。4~6月期は4四半期連続の前期比上昇が期待される状況だ。コロナ禍での自粛行動により個人消費が弱く、1~3月期のマイナス成長に続き、4~6月期も芳しくないと見られているGDP統計とは対照的な動きになりそうだ。

 

●先行きの鉱工業生産指数、6月分を先行き試算値最頻値前月比(+5.4%)で延長したあと、7月分を製造工業予測指数前月比(▲1.4%)で、8月分と9月分の前月比を各々0.0%で延長すると、7~9月期の前期比は0.0%と横ばいになる。また、6月分・7月分を製造工業予測指数前月比(+9.1%、▲1.4%)で、8月分と9月分の前月比を各々0.0%で延長すると、7~9月期の前期比は+2.4%の上昇になる。7~9月期は5四半期連続の前期比上昇になる可能性が大きそうな状況だろう。

 

(5月分の景気動向指数・速報値予測)

 

●5月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲1.1程度と12ヵ月ぶりの下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、新規求人数、新設住宅着工床面積、日経商品指数の4系列が前月差プラス寄与度に、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル) 、消費者態度指数、マネーストック、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの5系列が前月差マイナス寄与度になると予測した。

 

●5月分の一致CIは前月差▲2.3程度と3ヵ月ぶりの下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率の2系列が前月差プラス寄与度に、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、輸出数量指数の4系列が前月差マイナス寄与度になると予測した。

 

●5月分で景気の基調判断は、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」が継続されると予測する。仮に景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正される条件は「3ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1ヵ月、2ヵ月、または3ヵ月の累計)が1標準偏差分以上かつ当月の前月差の符号がマイナス」になることである。5月分は一致CIの前月差が下降でも、3ヵ月後方移動平均は上昇する見込みなので、「改善」が維持されることになると予測する。

 

●5月分の先行DIは77.8%程度と景気判断の分岐点の50%を12ヵ月連続で上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル) 、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、日経商品指数、中小企業売上げ見通しDIの7系列がプラス符号に、マネーストック、東証株価指数の2系列がマイナス符号になるとみた。

 

●5月分の一致DIは56.3%程度と景気判断の分岐点の50%を11ヵ月連続で上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の4系列がプラス符号に、有効求人倍率1系列が保合いに、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数の3系列がマイナス符号になると予測した。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年5月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。

 

(2021年6月30日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 理事・チーフエコノミスト

旧三井銀行(現三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。
パイオニアである日本の月次経済指標予測に定評がある。身近な社会データを予告信号とする、経済・金融のナウキャスト的予測手法を開発。その他、「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組んできている。「より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」など政府の経済統計改革にも参画。「景気循環学会」常務理事。
著書に『ジンクスで読む日本経済』(東洋経済新報社)など。

著者紹介

連載【宅森昭吉・理事・チーフ エコノミスト】エコノミックレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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