Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

いい作品は自由に見ることができて意味が重層的

単純にものと意味が直結しているのではなく、いくつにも解釈できる、様々な意味内容のレイヤーがあるということが、いい作品といわれています。

 

本物のアートの条件

 

筆者がもっとも尊敬する、すでに故人となったアメリカの現代アーティストのウォルター・デ・マリアは、常々、「いい作品とは、いくつもの解釈ができる作品のことだ」そして「いい作品とは最低でも10種類ぐらいの異なった解釈ができるものだ」と言っていました。

 

意味の重層性があり、幾重にも解釈が成り立つことが本物のアートだというわけです。

 

作品の核心を鑑賞者に委ねるために、デ・マリアは、自作について解説的なコメントは一切残していません。それどころか作品の印象を妨げる恐れがあるとして、自分の姿さえも人前には出さず、自分と作品との間に距離をとりました。ですから生前は誰もデ・マリアを見たことはありませんでした。

 

ただ、作品を見て、想像してくれ、というわけです。これは極端な例かもしれませんが、「いい作品は自由に見ることができて意味が重層的だ」というのは、正しいあり方であり、いい作品の特徴でもあるのです。

 

それは別の言い方をすれば、作品が、「開かれている」ということです。意味が閉じて固定化しているのではなく、常に関わる人によって自由に解釈できる。いくつにも読み込むことができる開かれた構造になっているということなのです。いい作品であれば、さらに、意味は豊かになっていくのでしょう。

 

近代アートと現代アートの違いについてのまとめとなりますが、皆さんが見慣れた印象派の絵画は、視覚的に十分に楽しめる美しさを兼ね備えたまさに近代アートです。20世紀の中盤ごろになると絵画は絵が描く対象から離れて、抽象的になり、自由になります。それでもまだ視覚的な造形性がありました。1980年代、90年代になると現代アートのほとんどは、視覚よりもコンセプト重視のものになります。

 

今日のアートに対して「純粋にアートを視覚的な快楽だけで楽しむことができなくなった時代」と言ったのが、アメリカの美術評論家・哲学者のアーサー・C・ダントーです。その傾向が揺るぎないものになったのは、1980年代からです。そこからすでに40年近くたったわけですが、その傾向は変わっていません。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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アート思考

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秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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