(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化に伴い、遺産を引き継ぐ人がいない「相続人不在」のケースが増加しています。相続人がわからない場合、遺産は誰の手に渡るのでしょうか? また、遺品の取扱いなどはどうなるのでしょうか。民法がどのような手続を定めているのかを、落語を基に解説します。※本連載は、弁護士・森章太氏の著書『落語でわかる「民法」入門』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「相続人がいない住人」が亡くなると、貸主も大変

【建物賃借人の死亡】

(1)建物賃借権の相続

建物賃借人が死亡した場合、賃借権の相続が認められ、賃貸借契約は当然には終了しません。賃借人に相続人がいない場合は、原則として賃貸借契約は終了します。

 

(2)遺品の処分

死亡した建物賃借人の部屋に残された遺品は遺産共有になるので、処分するには、共有物の変更として相続人全員の同意が必要です。相続人のあることが明らかでない場合には、相続財産管理人が遺品を処分します。

 

『黄金餅』の場合、大家は、西念の遺品を無断で処分することはできず、相続財産管理人の同意が必要になります。

 

建物賃貸人には、遺品を処分できず、新たに建物を貸すことができないことによる損失が生じるおそれがあります。賃貸人は賃借人の相続人などに賃料(賃貸借契約解除・終了後は賃料相当損害金)を請求することができますが、回収可能性の問題があります。

火葬で残った「金歯」などの有価物は誰のもの?

【残骨灰】

『黄金餅』の焼場に放置された西念の骨の中に金がまだ残されていた場合、どのように扱われるのでしょうか。

 

遺体が火葬され、遺族が収骨した後に残された骨や灰などを残骨灰といいます。残骨灰には、歯の治療で使われた合金などの有価物が含まれていることがあります。

 

昭和14年の大審院の判例(刑事事件)は、①火葬に際し遺骨とともに残存する有価物は、骨揚げが終わらない間は相続人の所有に属する、②市町村が営む火葬場においては骨揚げ後の骨灰中に残留する有価物は、相続人が所有権を留保する意思表示をしない限り、骨揚げが終わると同時に市町村の所有になるとします。

 

現在、残骨灰の取扱いには、法律や国の監督官庁がなく、処理の統一基準がありません。市町村の中には、残骨灰を売却して斎場事業の財源に充てるところもあります。

残骨灰を売却する市町村もあるが…

【おわりに】

『黄金餅』は、金兵衛が火葬した西念から取り出した金をもとに餅屋を始め、繁盛するという因果応報を否定するような結末です。市町村の中には残骨灰を売却しているところもありますが、死者の尊厳を損なうという批判もあります。現代版の『黄金餅』なのかもしれません。

 

<まとめ>

 

●被相続人が死亡して、相続人のあることが明らかでない場合、家庭裁判所による相続財産管理人の選任が必要になる。

 

●相続人の不存在が確定し、相続財産が残った場合には、特別縁故者に分与する制度がある。最終的に残った相続財産は国庫に帰属する。

 

●建物賃借人が死亡した場合、部屋に残された遺品を処分するには、相続人全員の同意などが必要である。

 

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落語でわかる「民法」入門

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