英国で行われたG7首脳会議(サミット)では、中国への対応が最大の論点になった。首脳宣言は、台湾海峡の安定に加え、半導体などのサプライチェーンの確保を強調し、中国を名指しで牽制している。東西冷戦と異なり、米中両国は経済的な相互依存度が高い。しかし、世界はブロック化の時代に突入、資源争奪戦や供給網の分断からインフレ圧力が強まるだろう。

「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
>>1月16日(木)開催・WEBセミナー

G7首脳会議:最大のテーマは対中政策

1980年代に年平均5.5%だった米国の消費者物価上昇率は、2000年代に2.6%、2010年代には1.8%になった(図表1)。この物価安定は主要先進国に共通した現象であり、固有の問題を抱えた日本はデフレに陥ったのである。

 

期間:1980~2021年5月 出所:米国労働省のデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表1]米国の消費者物価上昇率(前年同月比)期間:1980~2021年5月
出所:米国労働省のデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

世界的なインフレ圧力の低下は、グローバリゼーションが背景だろう。1989年11月、東西冷戦の象徴であったベルリンの壁が崩壊、1991年12月には旧ソ連が消滅した。そこから世界は市場の統一へ向け一気に動き出したのである。中国、ASEAN、メキシコなど途上国の一部が急速な工業化を遂げて新興国となり、相対的に低い労働コストを武器に主要国へ製品を供給した。WTOによれば、2000~09年までの10年間で世界の貿易額は4.2倍になっている(図表2)。

 

期間:1980~2019年 出所:WTOのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表2]世界の貿易額期間:1980~2019年
出所:WTOのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

先進国の企業は新興国の挑戦に晒される一方で、低金利による資金調達が可能になった。さらに、情報通信技術の飛躍的進歩が表裏一体の関係となって、GAFAなど巨大なIT系多国籍企業が生まれたのである。

 

しかしながら、国際社会は新たな転換点を迎えたようだ。富の格差が世界的な課題なり、米国では所得再分配を掲げたジョー・バイデン政権が誕生した。そして、今回のG7サミットでは、中国が民主主義陣営の対抗国として明確に意識されたのである。少なくとも当面、世界は米中両陣営による陣取り合戦、即ちブロック化の動きを意識せざるを得ないだろう。

格差是正・ブロック化:世界的な物価安定期の終わり

格差是正を重視する政策は必然的に「大きな政府」を必要とし、経済効率よりも所得の再分配がより重視されると考えられる。これは、賃金の上昇などを通じてマクロ的なコスト高要因であり、物価を押し上げるインパクトになるのではないか。

 

他方、米中を2つの軸とする世界のブロック化は、米国、ソ連両陣営の経済交流が極めて限定的だった東西冷戦期とは様相が異なるだろう。米中経済は相互依存関係にあり、冷戦期のように厳格な通商の壁を築くことは困難と見られる。

 

ただし、半導体、通信機器など戦略的財については世界に2系統のサプライチェーンが構築されるため、必然的に生産コストは増加を免れそうにない。また、資源の争奪戦に加え、新興国・途上国を自陣に招き入れるため、米中両陣営は輸入にあたり敢えて高い価格を支払ったり、経済支援を厚くすることも考えられる。それらは、世界的にコストを引き上げ、インフレの圧力となるのではないか。

 

今回のG7サミットは、異端児であった米国のドナルド・トランプ前大統領がおらず、従来の首脳会議に戻った印象が強い。バイデン大統領は、米国の伝統的な外交方針に従い、多国間の議論を主導し、収斂させることが米国の国益に資すると考えているようだ。ただし、後に振り返ると、今回のG7は世界がブロック化、そしてインフレの時代に突入する転換点と位置付けられる可能性は否定できない。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『G7サミット 新たな分断がもたらすインフレ圧力』を参照)。

 

(2021年6月18日)

 

 

市川 眞一

ピクテ投信投資顧問株式会社

シニア・フェロー

 

日本経済の行方、米国株式市場、新NISA、オルタナティブ投資…
圧倒的知識で各専門家が解説!カメハメハ倶楽部の資産運用セミナー

 

カメハメハ倶楽部セミナー・イベント

 

【1/7開催】<令和7年度>
税制改正大綱を徹底解説
最新情報から見る資産運用への影響と対策

 

【1/8開催】オルカン、S&P500…
「新NISA」の最適な投資対象とは
金融資産1億円以上の方だからできる活用法

 

【1/9開催】2025年の幕開け、どうなる?日本株
長いデフレ環境を生き抜いたスパークスが考える
魅力的な企業への「長期集中投資」

 

【1/9開催】相続人の頭を悩ませ続ける
「共有名義不動産」の出口は“売却”だけじゃない!
問題点と最新の解決策を藤宮浩氏が特別解説

 

【1/12開催】相続税の
「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?
【見逃し配信special】

 

 

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧