G7サミット 新たな分断がもたらすインフレ圧力

英国で行われたG7首脳会議(サミット)では、中国への対応が最大の論点になった。首脳宣言は、台湾海峡の安定に加え、半導体などのサプライチェーンの確保を強調し、中国を名指しで牽制している。東西冷戦と異なり、米中両国は経済的な相互依存度が高い。しかし、世界はブロック化の時代に突入、資源争奪戦や供給網の分断からインフレ圧力が強まるだろう。

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G7首脳会議:最大のテーマは対中政策

1980年代に年平均5.5%だった米国の消費者物価上昇率は、2000年代に2.6%、2010年代には1.8%になった(図表1)。この物価安定は主要先進国に共通した現象であり、固有の問題を抱えた日本はデフレに陥ったのである。

 

期間:1980~2021年5月 出所:米国労働省のデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表1]米国の消費者物価上昇率(前年同月比)期間:1980~2021年5月
出所:米国労働省のデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

世界的なインフレ圧力の低下は、グローバリゼーションが背景だろう。1989年11月、東西冷戦の象徴であったベルリンの壁が崩壊、1991年12月には旧ソ連が消滅した。そこから世界は市場の統一へ向け一気に動き出したのである。中国、ASEAN、メキシコなど途上国の一部が急速な工業化を遂げて新興国となり、相対的に低い労働コストを武器に主要国へ製品を供給した。WTOによれば、2000~09年までの10年間で世界の貿易額は4.2倍になっている(図表2)。

 

期間:1980~2019年 出所:WTOのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表2]世界の貿易額期間:1980~2019年
出所:WTOのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

先進国の企業は新興国の挑戦に晒される一方で、低金利による資金調達が可能になった。さらに、情報通信技術の飛躍的進歩が表裏一体の関係となって、GAFAなど巨大なIT系多国籍企業が生まれたのである。

 

しかしながら、国際社会は新たな転換点を迎えたようだ。富の格差が世界的な課題なり、米国では所得再分配を掲げたジョー・バイデン政権が誕生した。そして、今回のG7サミットでは、中国が民主主義陣営の対抗国として明確に意識されたのである。少なくとも当面、世界は米中両陣営による陣取り合戦、即ちブロック化の動きを意識せざるを得ないだろう。

格差是正・ブロック化:世界的な物価安定期の終わり

格差是正を重視する政策は必然的に「大きな政府」を必要とし、経済効率よりも所得の再分配がより重視されると考えられる。これは、賃金の上昇などを通じてマクロ的なコスト高要因であり、物価を押し上げるインパクトになるのではないか。

 

他方、米中を2つの軸とする世界のブロック化は、米国、ソ連両陣営の経済交流が極めて限定的だった東西冷戦期とは様相が異なるだろう。米中経済は相互依存関係にあり、冷戦期のように厳格な通商の壁を築くことは困難と見られる。

 

ただし、半導体、通信機器など戦略的財については世界に2系統のサプライチェーンが構築されるため、必然的に生産コストは増加を免れそうにない。また、資源の争奪戦に加え、新興国・途上国を自陣に招き入れるため、米中両陣営は輸入にあたり敢えて高い価格を支払ったり、経済支援を厚くすることも考えられる。それらは、世界的にコストを引き上げ、インフレの圧力となるのではないか。

 

今回のG7サミットは、異端児であった米国のドナルド・トランプ前大統領がおらず、従来の首脳会議に戻った印象が強い。バイデン大統領は、米国の伝統的な外交方針に従い、多国間の議論を主導し、収斂させることが米国の国益に資すると考えているようだ。ただし、後に振り返ると、今回のG7は世界がブロック化、そしてインフレの時代に突入する転換点と位置付けられる可能性は否定できない。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『G7サミット 新たな分断がもたらすインフレ圧力』を参照)。

 

(2021年6月18日)

 

 

市川 眞一

ピクテ投信投資顧問株式会社

シニア・フェロー

 

 

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ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。
著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。
2011年6月よりテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』レギュラー・コメンテーター。

著者紹介

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

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連載PICTETマーケットレポート・Deep Insight

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