患者アンケートの「一工夫」で患者の離脱を防ぐ
患者満足度を高め、離脱率を防ぐ具体的な取り組みの一つに「患者アンケート」があります。ホテルや飲食店等でも実施されている「お客さまアンケート」と同じようなもので、やりっぱなしではなく、結果を改善に結びつけていくことが肝心です。
クリニックでも同様のアンケート調査をすることがありますが、通り一遍のやり方では思うような効果を得られません。活用できるデータにするためには、なんのためにアンケート調査をするのかを考えたうえで、質問内容や実施方法に一工夫加えたいところです。
いくつか方法をご紹介しましょう。
アンケート対象者を「中断・離脱した患者」に限定
1.診療を中断または離脱した患者に書いてもらう
Aクリニックの事例です。定期的に来院している患者は「不満要因は少ない」と考えられるので、アンケート対象からは外します。ターゲットになるのは、診療を中断または離脱した患者です。直接、個人宅にアンケート用紙を送り、無記名で答えてもらったところ、300件ものアンケートが集まりました。内容をまとめてみると以下の4つに集約されました。
●検査を頻繁に行うので、治療代がかさむ
●次回診療の予約を取られるので、プライベートまで縛られている感覚がある
●経過も含めて、もっと説明をしてほしい
●待ち時間が長い(1時間以上)
もちろんすべての患者のニーズに応える必要はありませんし、現実的に応えられないこともあるでしょう。批判的な意見もありますが、同じようなことを思っていたとしても許容できる人もいます。
頻繁な検査で「治療代がかさむ」と感じる人がいる一方で、逆に定期的な検査でしっかり診てほしいと希望する人もいます。次回予約を取ることに窮屈さを感じる人がいる一方で、「先の予定を立てやすい」ということで次回予約を取ることをありがたがる人もいます。待つことがそれほど苦にならない、待ってでも先生の診察を受けたいと思っている人は、待ち時間に対しても寛容です。
「敵味方は半々」だといえるので、アンケート結果に一喜一憂することはありません。患者の意見(ニーズ)を踏まえてクリニックの方針を決めることを考えましょう。
スタッフが直接ヒアリングすることで「本音」を探る
2.スタッフが直接ヒアリングする
Bクリニックでは、広告代理店の提案に基づき、満足度を4段階(大変満足している、満足している、不満がある、とても不満がある)で評価する選択式のアンケートを実施したところ、「満足度が高い」という結果が得られました。広告代理店の担当者も「先生の親身な診察は評判がいいのに加えて、スタッフの対応もすばらしいということですよ。よかったですね」と持ち上げてきます。
しかし、院長は半信半疑です。本当に皆さんが満足してくれているのだろうか、来なくなった患者はどう思っているのだろうか…と胸中穏やかではありません。アンケートが選択式だったので、患者の満足不満足の要因までは分かりませんし、なにより「本音」にはたどり着けていない気がしたのです。
もう一度、やり方を変えて患者さんに聞いてみよう。そう考えた院長は、患者が不満に思っていることを一つずつ拾い上げられるように「スタッフが患者に直接ヒアリングする」という手法に切り替えました。
「XXさん、待ち時間がいつも長くてごめんなさいね。1時間くらいお待ちいただくことがありますが、お尻や腰が痛くなりませんか?」
「そりゃ、しんどいときもありますよ。クッションが柔らかいし、この椅子は私には低いから立ち上がるときもつらいですよ。それにね…」
このように世間話の延長線上で肩肘張らないコミュニケーションを取ることで、患者も思っていることを口にしやすくなります。実際、Bクリニックではこの意見を基に、沈み過ぎず、着座位置が少し高い椅子に変えました。
患者にとって「それほど不満に思っているわけではないけれども、改善してもらえるとうれしい」ことは少なくありません。「要望に応えてもらえた」ことが満足度につながりますし、たとえ実現できなくても「話を聞いてくれた」というクリニックの姿勢そのものに信頼を寄せてくれるでしょう。
ちなみに「医科の10年先を進んでいる」といわれる歯科業界では、資格制度もあるトリートメントコーディネーター(以下、TC)という役職があります。10年ほど前に誕生しており、「患者コミュニケーションの専門家として治療者と患者の間に立ち、双方にとって満足のいく治療を進めるための調整役を担う」存在として注目が集まっています。現に、TCを配置する歯科クリニックも増えており、ドクターや衛生士の負担軽減、患者満足度の向上、スタッフのやりがい向上等につながっています。
診療スタイルが違う医科と歯科を同列に論じることはできませんが、過当競争の中で生き残りをかけて知恵を絞っている歯科業界には見習うべきポイントは多々あります。実際に、メディカルコーディネーターという役職を導入しているクリニックもあります。ぜひ参考にしていただければと思います。
質問項目を具体的にすることで「使える改善案」を収集
3.質問項目を具体的にする
2のやり方は具体的な解決法を導き出しやすく、患者にも好印象を与える反面、時間と手間がかかるうえに、全体的な傾向をつかみにくいのが難点です。なるべく労力をかけずに多くのデータを収集し、有効活用できればそれに越したことはありません。効率と効果のバランスを重視したい場合は、「質問項目を具体的にする」とよいでしょう。
例えば、「待ち時間が長いと感じますか?」という質問に対して4段階で評価するとします。結果を数値化しても待ち時間が長いと感じる人が多数派なのか、待ち時間が短いと感じる人が少数派なのか、傾向が分かる程度で「患者がなにを望んでいるのか」「どうすればその不満を和らげることができるのか」までは分かりません。
そこで「待ち時間の過ごし方について」というテーマに変えてみます。
①読みたい雑誌や本はありますか?
②テレビで好きな番組はありますか?
③子どもに見せたいビデオはありますか?
といった具体的な質問を投げ掛けるのも一つの方法でしょう。
ただ、好みはそれぞれ違いますし、各自がスマホで時間をつぶせる時代ですから、タブレットを貸し出したり、Wi-Fi環境を整えたりすることも考えられます。サンプリング数が多ければいいわけではありません。少ないデータでも意味のあるアンケートになるように工夫してみてください。
「応えるべきニーズ」と「そうではないニーズ」は半々
アンケートでは先生方にとって耳の痛い意見が目立つこともありますが、同じ数かそれ以上に先生のファンもいることを忘れないでください。確かに、インターネットの書き込みと同じで、ネガティブな意見を聞くとそれが頭の中を占めてしまうことは理解できます。とはいえ、それを一つひとつ気に病んでいては身がもちません。
ビジネスの世界でいわれる「20対60対20」の法則はクリニックにも当てはまります。
20%のコアなファン層と、かかりつけ医を持たない浮気がちな60%の患者層、そして他院のファン層である残りの20%。万人受けするクリニックを作ることは難しいのです。迎合し過ぎるとかえって、ファンの患者が離れることもあるので、どこかで割り切ってください。ぶれないようにするためにも、具体的な目標設定は重要です。
柳 尚信
株式会社レゾリューション 代表取締役
株式会社メディカルタクト 代表取締役
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