レセプト分析の結果、約4年で「収入が右肩上がりで推移」したクリニックの経営改善例【医療機関コンサルが解説】

レセプト分析の結果、約4年で「収入が右肩上がりで推移」したクリニックの経営改善例【医療機関コンサルが解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

レセプトデータを活用すると、クリニックの経営は驚くほど改善します。たとえば、自院の大部分を占め、収益の柱となっている主病名や診療行為はなにか。こんなことを定点観測(モニタリング)していくと、収益を改善するために取るべき行動が見えてくるのです。医療機関コンサルの筆者が、実際の経営改善例を紹介します。

レセプトデータを活用した経営改善の実例

レセプトデータを活用して経営改善を行った事例として、大阪府八尾市にある医療法人松尾クリニックをご紹介しましょう。

 

近鉄大阪線の八尾駅から徒歩3分のところにある松尾クリニックは、内科、循環器内科、消化器科、リハビリテーション科を標榜しており、「患者さんのそばにいる医療」を目指して1985年に開院して以来、35年以上にわたり、地域に溶け込んだクリニックとして根強いファンに支持されています。

 

院長の松尾美由起先生は、仕事に趣味にエネルギッシュな日々を送られています。常に患者のためを思って行動されている先生で、阪神・淡路大震災が起こったときも、被災地に駆けつけたそうです。患者からは、話し掛けやすい、相談しやすいと評判で、自分の母親ほど歳が離れたがん患者の女性から「私のお母さんみたいでなんでも話せる」と言われたことがあるというのも納得です。

 

「必要としている人がいるから」という発想のもと、開院当初から草創期段階の在宅診療、訪問診療を手掛けておられ、1990年代初頭には先進的な取り組みとしてNHKの取材を受けています。ユニークな取り組みとして開業後間もなく「松樹会」という患者会を組織し、リハビリをしつつ主体性を養うために疾病の勉強会や手芸、書道の教室を開いている他、年に一度の日帰り旅行も開催されています。ちなみに、「松樹会」という名称は患者が名付けたそうです。

 

地域の「かかりつけ医」を目指すなら理想の経営モデル

同クリニックでは、診療方針の一つに「納得のいく質の高い医療」を掲げ、循環器疾患に対応した各種検査を行っています。充実した検査機器で入念に検査を行い、所見とともに結果を伝えています。患者が納得するまで丁寧に説明をすることで患者の信頼を得ているのです。常勤の臨床検査技師がいるため、検査結果をその日のうちに伝えられるのも特長の一つです。

 

【図表】の松尾クリニックの診療行為別集計表を見ていただければ、「検査」と「医学管理」の項目で医業収入の約50~60%を占めており、一般的な内科クリニックと同様に最大の収益の柱となっていることが分かります。

 

松尾クリニック(2017年)
【図表】診療行為別集計表 松尾クリニック(2017年)

 

生活習慣病患者のフォローが行き届いている結果として、リピート率が高い(再診料の比率が高い)ことが読み取れます。

 

週4日行っている「在宅診療」は約30%を占めており、外来から在宅に移行した患者のフォローだけでなく、紹介患者も受け入れているクリニックとして、地域からの信頼も厚いと見ることができます。

 

これらの分析から、地域の「かかりつけ医」を目指すドクターにとっては理想の経営モデルだといえるでしょう。患者のためにできることを考え、行動してきた結果が表れています。誰にでも真似ができるやり方ではありませんが、目指すべき一つのモデルではないでしょうか。

 

レセプト分析によって「経営改善に繋がる行動」が判明

現状に満足されない松尾院長の「クリニック全体で数値目標を共有したい」というニーズを基に関係が始まったのは2016年。当時はクリニック部門(外来+訪問診療)、訪問看護ステーション、デイケア、ケアプランセンターの4部門で構成され、総勢30名を超えるスタッフ数(うちドクター3名)を抱えていました(※デイケアは2019年、訪問看護ステーションは2020年に閉所)。

 

2016年4月に行われた初顔合わせとなる経営会議では、レセプトの分析結果とともにクリニックの特徴を解説したうえで、現状の問題点を指摘し、各部門で収入目標を立ててもらいました。

 

同年7月の経営会議からはその問題点に基づき、各部門の収入目標に対する予算と実績数値の報告を行いました。この時点での収入目標は過去の実績に基づき、少し背伸びすれば届くところに設定しています。クリアできるかどうか分からないシビアな数字を突きつけるとスタッフからの反発が生じる恐れがあるため、達成感を味わってもらえるような数値目標を設定しました。

 

4年近くこのやり方を継続した結果、クリニック収入は右肩上がりで推移しました。その中でも際立つものとして「検査」への取り組みをご紹介しましょう。

 

常勤の臨床検査技師がいる松尾クリニックは、エコー検査に力を入れています。しかしこれまでは、検査スタッフとのコミュニケーション不足が原因で、院長の思うように検査をオーダーできていませんでした。

 

そこで会議を重ね、1日にオーダーできる検査件数を数値化し、検査効率を高めるための業務フローに変えました。すると検査オーダーがスムーズに通るようになり、結果としてクリニックの収益向上にも反映されたのです。もちろんこの検査も、医療機関の都合ではなく、あくまでも「必要な人がいるから」行うというスタンスは変わりません。

 

レセプトデータは、日々の行動を具体化するためのきっかけになることを示した好例だといえるでしょう。

 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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