収束の見えないコロナ禍が、オーストラリアに魅力的な投資環境を出現させています。背景には、①コロナ禍による外資規制強化と中国からの投資の激減、②コロナ禍による国境の閉鎖、③投資分野の多様化、という3つの事情があり、これらを活用して有利なM&Aのチャンスをつかむ日本企業が増えています。日本と豪州の弁護士資格を保有し、豪州で10年の弁護士キャリアを持つ、鈴木正俊氏が解説します。

投資分野の多様化

日本企業によるオーストラリアへの投資は、石炭、鉄鉱石、天然ガスといった日本がオーストラリアから輸入しなければならない資源の分野に関するものが長らく中心となってきました。日本経済のために必要な資源を確保するという目的での投資であり、実際に石炭、鉄鉱石、天然ガスの3つは、オーストラリアの輸出品目のトップ3となっています(2019年度では、この3品目でオーストラリアの輸出金額の半分程度を占めています)。

 

しかし、2010年代に入ってからは資源以外の多様な分野において、日本企業による大規模な投資(M&Aによるオーストラリア企業の買収)が見られるようになっています。

 

以下の表に、オーストラリアの資源以外の分野において2015年以降に行われた日本企業による大規模なM&A取引の事例をまとめました。

 

[図表]日本企業による大規模なM&A取引の事例

 

上記の表のとおり、オーストラリアにおいて日本企業が資源以外の様々な分野で大規模な投資を行っていることが分かります。日本がオーストラリアを必要な資源の輸入先としてのみ見るのではなく、米国やヨーロッパのように、オーストラリアを成熟した先進国として、様々な分野で全面的で広範な事業の展開をする対象として見ているといえます。

 

なお、ここ数年の新しい傾向として、オーストラリア政府は、水素や太陽光などの再生可能エネルギー産業を発展させることに注力しており、オーストラリアは再生可能エネルギーの投資先として注目されています。オーストラリアは、石炭、天然ガスなどの化石燃料の輸出に経済が依存しているのですが、昨今の世界的な脱化石燃料の流れを受けて、再生可能エネルギーをこれらに代わる新たな主力輸出品目として育てることを考えています。

 

オーストラリア(特にクイーンズランド州や西オーストラリア州)は、日照時間が長く、土地が広大であることから太陽光発電を行うのに適した条件を有しています。

 

また、水素については、「太陽光発電を利用して水を電気分解することで水素を生成する事業(グリーン水素)」と「石炭や天然ガスなどの化石燃料と水から熱化学反応によって水素を生成する事業(ブルー水素)」が推進されており、前者については太陽光発電に適した条件を有していること、後者については石炭や天然ガスなどの化石燃料が豊富であることから、オーストラリアは水素産業について高いポテンシャルを有していると考えられています。

 

太陽光発電事業への投資例としては、双日とENEOSによるクイーンズランド州Edenvaleにおける大規模太陽光発電所の建設プロジェクト、水素事業への投資例としては、川崎重工が主導するヴィクトリア州Latrobe Valleyにおける褐炭を利用した水素製造及びサプライチェーン構築プロジェクトが挙げられます。

 

オーストラリアはこのような再生可能エネルギーの主たる輸出先として、地理的に近く、これまで化石燃料の輸出先であった日本、中国、韓国などを想定しており、特にこの分野における日本企業の投資を歓迎しています。このような流れの中で、日本の大手商社は、オーストラリアにおいて、燃料炭(発電に使用する燃料用石炭)への投資を縮小しており、代わりに再生可能エネルギーの投資先を探しています。

 

以上が、最近の日本企業によるオーストラリア企業に対するM&A取引の状況に見える3つの特徴です。

 

オーストラリアは、日本企業にとって、資源分野に限らず、様々な分野を対象としたM&A取引・事業展開が行える国であり、国家安全保障の問題により中国企業の投資が減少している中で、その穴を埋める先として特に日本からの投資に期待をしています。現在は、コロナ禍によってオーストラリアの国境は閉鎖されているものの、国境が開けば日本企業によるM&A取引が拡大することが見込まれています。

 

 

鈴木 正俊
グリーン・ビュー法律事務所
T&K法律事務所 外国駐在弁護士

 

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