兄弟間での相続に対する温度差が生じていた?
税理士から相続税の申告において、途中経過の報告を受けました。
税理士の選定、資料提供とそこまでは長男が単独で行っていましたが、数字がとりまとまった段階における中間報告として具体的な数字や不明点、分割の確認を行う場面においては、長男だけでなく、二男も同席しました。
遺言もあることから、特に問題なく申告も終わるのではないかと考えておりましたが、下記の2つの問題点が生じました。
1.どの土地に小規模宅地の特例を適用するか
2.父の生前のお金の流れについて
まず1点目は以下のような内容です。
今回の事例においては、小規模宅地の特例は所有している土地すべてに適用することが可能です。ただし、無制限にいくらでも減額を受けられるという訳ではなく、土地の面積に下記のような一定の計算式で限度が設けられています。
(自宅の面積×220/330+貸家の面積≦200㎡)
減額される割合としては、自宅は80%減額、貸家は50%減額となります。そのため、自宅に適用した方が計算上有利となります。
このケースでは、自宅の土地の面積すべてに適用した場合でも、まだ貸家に100㎡適用することができます。長男としては、自宅に適用し、残りの100㎡については、貸家Aに50㎡、貸家Bに50㎡で適用すると考えていました。
しかし、二男としては、長男が自宅の減額を受けるので、「自分は貸家Bに100㎡すべて適用したい。兄は優遇されすぎだ!」と主張しました。
2点目ですが、税理士からの質問がトラブルの起点となりました。
相続税の申告では、税務署からの調査が他の税目に比べて調査率が高い税目となります。被相続人の過去の預金通帳の提供を受けていたため、取引履歴のうち、高額な出金がある部分で税務署からの指摘がないかどうかの確認も申告業務上において確認を行いました。
生前、父の面倒を見ていた長男としては、介護施設の支払いや、日常の生活費、入院代、介護に係る長男の交通費等を費消していたことを説明しました。
税務上では、資金移転や名義性財産に該当せず、問題はありません。しかし、遠方に住む二男は、疎遠であったこともあり、そのお金のやり取りについて本当にその通りであったのか、長男は資金援助を受けていたのではないかと猜疑心を抱いてしまいました。
不信感から揉めてしまい別々の申告を行うことに
お金の流れについての猜疑心から、小規模宅地の特例についても感情的になり、兄ばかりいい思いをしているのは気に食わないとより意固地になってしまいました。
長男としても、父の面倒を一人で全て対応し大変な思いをしたにも関わらず、弟はまったく顔も見せず、介護の苦労も考慮してくれないと弟に失望してしまいました。そのため、二男は、別の税理士を見つけ、別々の申告を行うことにしました。
揉めた結果、申告期限まで時間に余裕がなく、どの土地に小規模宅地の特例を適用するかという結論は出ませんでした。そのため、3年内の分割見込書を提出し、未分割として申告期限までに一旦の申告を行いました。
しかし、小規模宅地の特定については、適用を受けるためには分割が確定していることが要件となります。遺言書によって既に土地は名義変更も行われており、分割は確定しており、未分割ではありません。
今回の事例においては、申告期限までに適用する土地の同意も行うことができないと特例を使用することができませんでした。
■まとめ
本件のように、遺言があっても小規模宅地の特例が適用できないケースというのは生じる可能性があります。このような結末にならないようにするためには、下記のような対応が必要となります。
1.別申告になる場合であっても、小規模宅地の特例についてはすり合わせを行い申告する
2.遺言書を使用せず、遺産分割協議で進める共通認識をして、未分割申告とする
相続税の計算においては、小規模宅地の特例というものは税金が大幅に安くなる制度となります。適用できないことによる納税者の損失は大変なことになりますので、慎重な判断や進め方が必要となります。
不安な方は相続税の申告や対応に熟達した相続税専門税理士に相談することをおすすめします。
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