(画像はイメージです/PIXTA)

親が子どもに大きな財産を「贈与」する場合、「本当に大丈夫だろうか?」と不安になるものです。それは、会社の株式でも同じです。本記事では、「受益者指定権等」を使って解決する方法を見ていきます。※本連載は、笹島修平氏の著書『信託を活用した新しい相続・贈与のすすめ 5訂版』(大蔵財務協会)より一部を抜粋・再編集したものです。

「取得条項付種類株式」と「受益者指定権等」

長男に株式を贈与した場合には、長男が株式の所有権を持つことになります。所有権を持つ長男は、当然株式にかかる議決権と株式を管理・処分する権利を有します。贈与してしまった株式を贈与者の意思だけに従って長男から取り戻すことはできません。

 

ただし、会社が買い取ることができる種類株式を贈与しておけば、後日、会社の意思決定に従って長男から当該種類株式を買い戻すことは可能になります。このような種類株式は「取得条項付種類株式」といいます(会法2十九)。

 

この場合、あくまで会社の決定に基づいて買い取ることになりますので、会社の議決権をAさんが支配していることが必要になります。また、買い取る価額は原則として時価となりますので、株式を会社が買い取ることができたとしても、株式の価値に相当する売買代金は長男に渡さなければなりません。

 

これに対して、株式を信託し、受益権を長男に贈与した場合には、長男が持つのは所有権ではなく、受益権になります。受益権については信託行為(信託契約等)で自由な規定をすることが認められており、いつでも受益権を無償で取り戻すことができる旨の規定を設けることができます。具体的には、「受益者指定権等」を利用することになります。

 

受益者指定権等とは、「受益者を指定し、又はこれを変更する権利」と定義されています(信法89①)。受益者指定権等の「等」とは、受益者を指定する他に、受益者を変更する権利を有することを意味しています。本問の場合、Aさんが受益者指定権等を有する旨を信託行為(信託契約等)で定めておけば良いでしょう。

 

受益者指定権等(信法89①)
受益者を指定し、又はこれを変更する権利

 

Aさんが受益権を贈与した後に、長男が経営に向かない場合や、長男との関係が悪化した場合などには、Aさんは受益者指定権等を行使して、新しい受益者を指定できます。具体的には、Aさんが受託者に新しく受益者になるべき者を伝えれば(意思表示すれば)変更することができます(信法89①)。

 

Aさんが受託者である場合には、Aさんが新しく受益者になるべき者に伝えれば(意思表示すれば)、変更することができます(信法89⑥)。

 

〈受益者指定権等の行使の方法(信法89①、②、⑥)〉

・受益者指定権等を有する者≠受託者
 ……受益者指定権等を有する者が受託者に対して意思表示

・受益者指定権等を有する者=受託者
 ……受益者指定権等を有する者が新しい受益者に対して意思表示

(注)上記の他に、遺言によって行使することもできます。

 

親が子供に大きな財産を贈与する際には、「財産を贈与してしまったら自分の老後はどうなるのだろうか。子供は財産をもらったら親のことなど気に掛けなくなるのではないか」と心配になるものです。

 

そのようなことが気になって贈与をためらう方も少なくありません。このような場合には、受益権を贈与しておき、受益者指定権等を親自身が保有するようにしておくと良いでしょう。

 

万が一、子供との関係が悪くなってしまったとしても親が受益者指定権等を行使すれば受益権を取り戻すことができます。また、親が受益者指定権等を有していれば、子供に対しても一定の牽制効果があるでしょう。つまり、子供が礼節に反すれば、親は受益権を取り上げることもでき、子供は親に対する礼節をわきまえるでしょう。

 

【税務上の取扱い】

受益者を子供にした場合(受益権を子供に贈与した場合)には、子供に信託財産を贈与したものと同様に、贈与税が課税されます。そして、将来万が一子供との関係が悪化して受益権を親に戻した場合には、子供が親に信託財産を贈与したとみなして親に贈与税が課税されることになります。したがって、このように受益権を取り戻すこと可能ですが、課税法上は大きな負担になってしまいます。

 

笹島 修平

株式会社つむぎコンサルティング 代表取締役

 

 

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信託を活用した新しい相続・贈与のすすめ5訂版

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大蔵財務協会

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