外交面で強まる「保守的色彩」
香港や新疆をめぐる問題など、中国を囲む外交環境は厳しさを増している(『中国の孤立化が進む⁉ 「封じ込め」ではなく「関与」が重要に』参照)。
全国人民代表大会と政治協商会議の両会のうち、初日の政協会議で汪洋全国政協主席が朗読した政協常務委員会工作報告では、パンデミック下で常務委はクラウド外交※1やオフライン会議を総合的に運用し、米国の反中的な各種法案や発言には声明や政協委員の座談会発言などを通じ厳正に反論してきたと誇示した。
※1 昨年来、指導層が「雲外交」との表現を使い始めたが、単にネットでのオンライン会議などを指している。
全人代の政府工作報告は香港について、これまで同様、「一国二制度(両制)」「香港居民による香港統治(港人治港)」「高度自治」に触れたうえで、香港国家安全維持法(国安法)実施や外国勢力関与の断固阻止を強調したが、政協報告では「一国両制」などの文言が消え、代わりに「愛国者治港」が強調され、香港やマカオに関する部分が大幅に簡略化された。政協は香港の国安法制定や選挙制度見直し(後述)などで集中的な検討を行ってきた枠組みである。
今年の政協報告は内容に乏しく特筆するものはないとする専門家もいるが(例えば清華大学政治系学者)、政協としては「香港問題は一件落着」との認識を示すものだろう。
政協報告が「一帯一路」に言及しなかった点も異例で、何らかの政策変更シグナルかとみられたが、政府工作報告では2020年回顧、第13次規画成果、第14次規画主要任務、2021年重点活動の中で計4回言及、その言いぶりも「質の高い一帯一路を共に話し合い建設し、利益を分かち合う(共商共建共享)原則を堅持・推進」とこれまでと変化はなかった(連載『新型コロナパンデミックと中国「一帯一路」』参照)。
政府工作報告の外交面の言及は次のように変遷し、保守的色彩が強まっているとの見方がある※2。
※2 2021年3月6日付、海外華字誌「万維読者網中国瞭望」
①「党の特色ある大国外交」について、2019年「新成就を獲得」→20年「豊かな成果」→21年「卓有成効」へと変化。
②2019年「新型国際関係の構築推進」→20、21年はなし。
③2019、20年「経済外交、人的・文化交流で豊かな成果」→21年はなし。
④2020年「党はグローバル・ガバナンス(全球治理)体系の建設・改革に積極的に参画」→21年は単に「多国間(多辺)主義堅持」。
①の「成就」は「成果」に近いが「願い事がかなう」のニュアンスがある。「成効」は「効果がある」で必ずしも成果があることを意味しない。「卓有成効」は本来「効果が著しい」だが、党用語としては「一般般」、つまり「まあまあ」「そこそこ」の意味で、パンデミック下で外交環境が厳しくなっていることを反映したものとの見方だ。