「脳梗塞」はどのようにして起こるのか?
脳梗塞を起こす血管の詰まり方にはいろいろあって、治療の仕方や予防の方法が全く異なる場合もあるので、鑑別診断が重要です。
詰まり方には大きく3通りあります。
1つ目は、比較的太い頸部および頭蓋内の脳動脈にコレステロールなどが沈着し(動脈硬化=粥状硬化)、動脈の内腔が狭くなったところに血栓ができて(狭窄や閉塞)、そこから先へ血液が流れていかなくなって脳の組織が死んでしまうもので「アテローム血栓性脳梗塞」といいます。
2つ目は、心房細動など不整脈を起こす心臓病により、心腔内にできた血栓がはがれて脳の動脈へ移動し、動脈を塞いで起こる梗塞で、これを「心原性脳塞栓症」といいます。
3つ目は、直径1mm未満の脳内の細い動脈が同じくコレステロールなどの沈着で詰まってできる直径15mm以下の小さな脳梗塞(ラクナ梗塞)です。
脳卒中の専門医は、脳梗塞の患者さんを診療するとき、まず本人や周囲の人たちの話を聞きます。その後、診察やいろいろな検査を行い、この3つのタイプのどれに当てはまるかを見極め、その上で治療を行っています。
ここで、重症の心原性脳塞栓の患者さんの例を2つ提示いたします。もっとも、脳梗塞はこのような重症の方ばかりではありませんので、その点はご留意ください。
1例目(図表1)は70代後半の男性。突然の意識障害と右片麻痺で発症しました。既往歴として心房細動があります。
発症後1時間の単純CT検査にて、左中大脳動脈水平部に一致した高吸収値陰影(矢印)を認めますが、対側もやや高吸収値のため判断が難しく、左中大脳動脈の方がより高い(白色)ようです。MRA検査にて左中大脳動脈閉塞(矢印)と明瞭に診断できました。この患者さんは急性期を脱し、回復期リハビリテーション病棟で右片麻痺と失語症のリハビリを受けて在宅復帰されました。
2例目(図表2)は80代後半の女性。突然の意識障害と左片麻痺で発症しました。人工弁置換術を受けた既往歴があります。
左図:発症後2時間の単純CTにて、向かって左側の右半分の脳の腫れのために溝が見えなくなっています。専門的にいえば、
1)右レンズ核の輪郭の不明瞭化
2)右島皮質の不明瞭化(Insular ribbonの消失)
3)右大脳半球全域における皮髄境界の不明瞭化
4)脳溝の消失(tight brain)
を認めます。
中央図:MRIの拡散強調画像DWIでは、右大脳半球のほぼ全域にわたる広範な高信号域を認めます。MRA(未提示)では右内頸動脈閉塞が確認されました。
右図:発症翌日の単純CTでは、右大脳は全般にわたって著明な脳浮腫を伴う広範な低吸収域(脳梗塞)となっています。この患者さんは意識を回復することなく急性期に亡くなられました。
以上、心原性脳塞栓の重症例ばかりの画像をお示ししましたが、他のタイプの脳梗塞も後でたくさん出てきます。また、画像診断も長足の進歩がみられています。CTや通常のMRI撮像法(T1,T2,FLAIR)では、梗塞巣の信号変化がみられない超急性期においても拡散強調画像(diffusion weighted image:DWI)では発症後30分~1時間頃より細胞性浮腫が高信号としてあらわれます(中央図)。
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