お金を巡る争いは尽きないもの。家族や親族の話し合いでなんとかなる……わけもなく、岡野雄志税理士事務所のもとには、様々な嘆きの声が届きます。今回寄せられた相談は「元夫の慰謝料にまつわる課税トラブル」。※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

元夫のお金は贈与ではなくワンオペ育児の「慰謝料」?

日本では財産分与に贈与税が課せられる?

 

では、実際、日本ではどうなのか。日本の贈与税には「暦年課税」と「相続時精算課税」がありますが、どちらも配偶者の減免措置や特例はありません。ただし、「暦年課税」は年間110万円以下なら非課税で、「相続時精算課税」には2,500万円の特別控除額があります。

 

また、「夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの」には、贈与税はかかりません。ただし、必要な都度ごとに支払われていればよかったのですが、6,500万円はまとめてRさんの預金口座に入金されていました。これはちょっと問題です。

 

国税庁サイトの「相続時精算課税」に関する項目には、以下の文言があります。

 

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「相続時精算課税」を選択した贈与者ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して贈与税がかかります。

国税庁『No.4402 贈与税がかかる場合』

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なお、この特別控除額は贈与税の期限内申告書を提出する場合のみ控除することができます。

 

また、前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります。

 

Rさんは、ご主人から受け取った6,500万円を贈与ではなく、慰謝料と考えていました。ただし、慰謝料には条件があります。慰謝料とは、「身体的あるいは精神的苦痛を受けた被害者に対して、その苦痛を与えた加害者が支払う損害賠償金」です。離婚慰謝料も同様です。

 

つまり、夫婦のうちどちらかが、一方的に相手へ苦痛を与えた場合に限られます。離婚理由がいわゆる「性格の不一致」の場合は双方に原因があるので、慰謝料の条件とはなりません。長年、Rさんはご主人の不在に悩み、ワンオペ育児だったので、条件としては成り立ちます。

 

しかし、離婚慰謝料の相場はせいぜい50~400万円程度です。裁判となった判例でも、1,700万円が最高額ではないでしょうか。Rさんの場合、6,500万円のうち何割を慰謝料とするかご主人と決めてなかったので、全額、離婚に伴う財産分与と考えたほうがいいでしょう。

 

離婚により配偶者から受け取った財産にも、贈与税はかかりません。ただし、その離婚が贈与税や相続税を免れるために行われた場合は、受け取った全額に贈与税が課せられます。税務署はここをついて、Rさんに電話してきたのです。

 

しかし、Rさんとご主人が離婚について話し合い、完全な別居状態となって10年近くになります(ちなみに、贈与税の時効は6年です)。しかも、その間ずっとご主人は行方知れずで、Rさんは税務署からの電話で他界したことを知ったほどです。

 

実は、過去にもこういった裁決事例はあり、Rさんが裁判所に申し立てれば、実質、離婚状態にあったことは認められるでしょう。となれば、受け取った6,500万円も離婚に際した財産分与と認められ、税務署も贈与税の徴収をあきらめざるを得ないはずです。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

岡野 雄志

岡野雄志税理士事務所

 

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