お金を巡る争いは尽きないもの。家族や親族の話し合いでなんとかなる……わけもなく、岡野雄志税理士事務所のもとには、様々な嘆きの声が届きます。今回寄せられた相談は「元夫の慰謝料にまつわる課税トラブル」。※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

衝撃…ビル・ゲイツ氏の「14兆円離婚」は相続税対策?

■アメリカの大富豪は相続税対策で離婚する!?

 

先ごろ、米マイクロソフト社の共同創業者ビル・ゲイツ氏が妻メリンダさんとの離婚を発表し、「14兆円離婚」と注目されました。夫妻の資産は推定約1,300億ドル、日本円で約14兆3,000億円とされます。そのため、相続税対策としての離婚ではないかと囁かれています。

 

日本の相続税は国税ですが、相続税にあたる米国のEstate Taxは国税の「連邦遺産税」と地方税の「州遺産税」とになります。「連邦遺産税」は税率18~40%、「州遺産税」は州で異なります。「連邦遺産税」は累進課税ですから、遺産が多いほど相続税額も多くなります。

 

日本のような相続税の基礎控除や「配偶者の税額軽減」はありません。その代わり、配偶者間の贈与は無制限で行えます。ただし、受贈者(贈与を受ける人)が米国市民権を得ていることが条件です。

 

また、米国では、ひとりの受贈者に対する贈与税1年あたりの一般非課税額は、1万5,000ドルです。夫婦間でなくても、米国市民同士の贈与でひとり1万5,000ドル以内なら、贈与税の申告・納税は必要ありません。

 

1万5,000ドルを超えて贈与した場合でも、「贈与税・遺産税の生涯非課税枠」が適用できます。米国に住む人ひとりあたりが、生涯にわたって無税で贈与・相続できる限度額があるのです。2021年度時点で、限度額は1,170万ドル(約12億8,700万円)となっています。

 

日本の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に比べたら、ずいぶん優遇されていると思う方もいることでしょう。実際、米国の遺産税納税者は全人口の1%に満たないといわれます。ビル・ゲイツ氏のような資産家は、その1%未満に当たるということです。

 

そして、最も大きな違いは、遺産税の納税義務者です。日本では法定相続人に相続税の納税義務がありますが、米国の遺産税納税義務者は被相続人、つまり財産を残して亡くなった方です。

 

離婚に伴う財産分与の割合は州により相違がありますが、ビル・ゲイツ氏が居住するワシントン州では、婚姻期間中の夫婦の資産は均等に分割されるようです。これに従うと、単純な試算ですが、メリンダさんの財産分与額は約650億ドル(約7兆1,500億円)となります。

 

米国の税法は日本の税法とはまったく異なり、単純には比較できません。しかし、以上のような観点から、米国でビジネスに成功し、巨富を築いた富豪が離婚すると、将来の遺産税対策として、夫婦間贈与や離婚による財産分与を選んだのではないかといわれる所以です。

 

さて、話を日本に戻しましょう。

 

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