保育園のようなプログラムが横行していたデイサービス
当初私は、デイサービスに否定的でした。もし自分が利用者だとしても通いたいとは思えなかったのです。
当時のデイサービスでは、保育園の延長みたいなプログラムが横行していました。
なぜ通ってくる高齢者に歌を歌わせたりお遊戯をさせたり、子どものお誕生日会のような、安っぽい飾りつけで室内を彩ったりする必要があるのか?
さらに、利用者に対する接し方にも違和感を覚えていました。
介護するスタッフはまるで母親のように、利用者を「○ちゃん」と呼んだり、あだ名をつけて呼んだりする。当時は介護施設の職員のなかに、保育士の資格をもつ女性が多かったこともその理由だと思います。
これは、長い人生のなかでさまざまな経験則をもっている高齢者に対する環境や接し方への違和感という問題だけではありません。
一般的に、身体に不自由が発生すると、人間は身体だけではなく精神的にもダメージを受けます。それまで何でもできていた自分を100とすると、いまの自分は全盛期の40〜60くらいの人間だと思うようになってしまい、無意識に自分を守る防衛本能が働きます。急に甘えるようになったり、わがままになったり、「自分にはできないんだから助けてくれて当然じゃないか」と依存的な考え方になります。これは「退行現象」といわれるものです。
こうした「退行現象」に、先ほどのデイサービスのような環境と接し方が結びついたらどうなってしまうでしょうか。必然的に利用者とスタッフのあいだに、共依存の関係が生まれてしまうのです。
依存の反対語こそ、「自立」です。この共依存関係が続けば、利用者は自立とは真逆の方向に進み、できることがどんどん減っていき、寝たきり状態に近づいていくのです。
もちろん介護保険制度以前から、こういう女性たちが高齢者の介護を支えてくれていたことには感謝しかありません。決して悪気があるわけではなく、本当に高齢者を愛してくれていた結果だったと思います。
けれど現実を見れば、育児の延長とも思えるお世話型介護の蔓延が、利用者の自立からはほど遠い介護環境をつくりだしてしまっている。利用者の病的な退行現象を進め、スタッフへの依存を引き起こし、その状況を増長させてしまっている。
そのことが早くから見えていただけに、私はリハビリに特化したデイサービスを徹底したかったのです。
最初に開業したデイサービスの場所は、普通の「民家」でした。
お金がないからという切実な事情はありましたが、私には違う目的もありました。
「利用者は民家で生活しているのだから、ここで自立できるようにしないといけない」
リハビリに力を入れていると称するデイサービスを見ても、整備された広く真っ平な廊下や広いホールで歩く練習をしています。ところが自分が生活する家のなかで自立を目指すとなると、その条件が違ってきます。広い家もあれば狭い家もある。マンションもあれば古い木造の一軒家もある。利用者の生活環境によって歩き方も違えば、使う筋肉も違います。そういうことを考えれば一度は療法士が家に行って利用者の居住環境をチェックしないといけません。
狭い二階建ての家と広い田舎の農家では、必要な動作が異なり、使う筋肉も鍛える筋肉も違います。家に合わせてオーダーメイドのリハビリをしないと自立支援にはならないのです。
そういう意味で民家を借りて、介護や医療業界から見れば、いわば劣悪な環境で自立を目標にリハビリを始めたことは非常に意味のあることでした。利用者にとっては、環境の整ったモデルルームでリハビリをやっても仕方ない。はじめこそ資金面から「民家」という選択肢を考えたものの、まさに禍を転じて福と為す、ということになったのです。
その後、自社で施設を建てることになっても、一般的なバリアフリーのデイサービス施設ではなくて、あえて「自宅で自立する」という、私が目指すサービスに則した建物をつくりました。
通常であれば、介護施設やクリニックを専門につくる業者に依頼するのですが、あえて一般のハウスメーカーに依頼して、「バリアアリー」の施設をつくったのです。
階段はある、お風呂は狭い、廊下も車椅子は通れない、上がり框はあるといった普通の家の環境を再現したスペースです。でも、そこで自立して生活できるような「不親切」なリハビリを行うことで、どんなに多くの利用者を自立に導けたことか。
一般的に考えればより多くの利用者を集められる、バリアフリーの効率的なデイサービス施設をつくっていたと思いますが、あえて「日常生活」にこだわった施設を建てたことで、さらに本物ケアのポリシーが強固になりました。
二神 雅一
株式会社倉心會 代表取締役
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