日本で亡くなる人は、年間130万人。亡くなる人の数だけ相続がありますが、お金が絡む話にはトラブルはつきものです。今回は子のない夫婦と義理姉の間に起きたトラブルについて、山田典正税理士が解説します。

いつも貧乏くじを引くのは、私だった…

「弟夫婦は『平等に』といって、美味しいところを持っていく人でした」

 

貧乏くじを引くのはいつも私だったとC子さんは苦々しい表情で語ります。

 

「父は商売や投資が好きな人でしたから、その方面の才能があるAをとても可愛がっていました」

 

だからこそ、都会に進学したいという希望にも二つ返事で許可と資金を出したといいます。対してビジネスへの関心の薄かったC子さんには、婿をとらせて家を継がせることだけを期待しました。

 

「父と顔を合わせるたびに『孫はまだか』となじられました。それなのに、AとB子さんが不妊治療を諦めるといいだしたときは『無理はするな』なんて言葉をかけて」

 

正直なところ、嫉妬していたのかもしれないとC子さんは顔を曇らせます。

 

「それに東京に出ていたAに比べて、私の方が実家に近かったので……母を看取るのも、父の介護も私の仕事でした」

 

最終的には素人の手にはあまり、介護施設に世話になったそうです。しかし、意識がはっきりしている間は『家から絶対離れたくない』と在宅介護を余儀なくされたといいます。

 

「AもB子さんも、実家には時々遊びに来る程度。だから、機嫌のいい父しか知りません。何度か『在宅介護には限界がある。施設に預けた方が父さんのためにもなる』と話しましたが、どこまで伝わっていたのやら」

 

それなのに遺産は半々だなんて納得できず食い下がると、迷惑そうな顔をされたといいます。

 

「たしかに私は年金を十分な額もらっていますし、生活に困ることはありません。でも、こんなに苦労したのに半分ずつだなんておかしいじゃないですか」

 

だからこそAさんが亡くなって、知らされた遺言書の『Aの財産はすべてB子が相続する』という内容を見たときは怒りより虚しさが勝ったそうです。

 

「ああ、この人たちは私がお金にしか興味がないと思っているんだな、と。そうじゃないんですけどね。もう疲れてしまいました」というと、ため息をひとつ。そのままC子さんは黙り込んでいました。

 

なんか悲しい…(※写真はイメージです/PIXTA)
なんか悲しい…(※写真はイメージです/PIXTA)

解説:相続問題は本当に「お金だけの問題」なのか?

今回のご相談は、典型的な相続トラブルのケースですね。お互いにそれぞれの言い分があるようですが、これは立場や考え方も違うし、見えているものも異なりますので仕方がないことだと思います。

 

Aさんが生前にC子さんとコミュニケーションをもっと取っていれば、という考えもありますが、親子ではなく姉弟という間柄で離れた地に住む状況だった訳ですので、難しい面もあったのではないかと思います。それではそれぞれの立場でどのようなことが出来たのか検証してみましょう。

 

法律的な話としては、B子さんは生前に『夫Aの財産は、すべて妻B子が相続する』と遺言を残していますし、B子さんサイドとしては取るべき対策は取られていると思います。また、ここで気になるのは遺留分ですが、C子さんは姉弟という間柄であり、姉弟には遺留分は発生しません。つまり、遺言を残していれば法律的にC子さんがAさんの財産を貰う権利を主張することはできず、B子さんとしては目的が果たせていることになります。

 

今度はC子さんに対してですが、上記の通りC子さんとしては遺言が残されている時点でAさんの財産を貰う権利を主張することはできず、泣き寝入り状態といったところです。これはAさんの状況であれば遺言を残すであろうことは容易に想像ができることですが、Aさんに対してC子さんから「私にも財産を残すように」と主張することは難しいのではないかと思います。

 

つまり、C子さんとしてはAさんの相続に対して取りうる対策はほぼないかと思います。そうしますと、今度はC子さんのお父さんの相続に遡って、その当時に何か取りうる対策が無かったかを検討してみましょう。

 

そもそも、C子さんはお父さんの遺産分割について、遺言以外に自らの権利を主張することはできたのでしょうか? 相続では寄与分という制度があり、相続人のうち被相続人の財産の維持・増加について貢献をした者については、相続における実質的公平を図るため、相当額の財産を取得させる制度があります。

 

ただし、お父さんの介護に対してどの程度の苦労をされたかはわかりませんが、寄与分の制度も実際に介護をしていたというだけで認められることはほとんどないのが実情です。平成30年度の民法改正で特別寄与という制度が創設されましたが、これは対象者が相続人以外であることが要件ですので、C子さんは主張することができません。結論としては、法律上はC子さんが介護や生前に面倒を見てきたことを主張して財産を多く貰うことは難しいと思います。

 

結論としては、結局はこれが法律の限界であり、C子さんが対策をしようとしても取りうる対策はほとんどなかったことになってしまいます。

 

唯一できる対策としては、お父さんが残された遺言にC子さんの相続財産を多くなるように書いて貰うことですが、実際にこれを親に主張するのは難しいかもしれません。エピソードを拝見すると、C子さんは自分でも「嫉妬していたのかもしれない」と漏らしています。Aさんは上京して自由に自分の人生を送っていた一方で、自分はお父さんの介護をしたり面倒を見たり自らを犠牲にしてきたことを、労って欲しいだけなのかもしれません。

 

お父さんが遺言に付言事項でC子さんへの労いと感謝の言葉を残していてくれれば、またC子さんの納得感が違ったかもしれないですし、Aさんもお父さんの相続の時に「生前にお父さんの面倒を見てくれていてありがとう。今まで苦労を掛けてしまってすまなかった」と一言伝えるだけでもC子さんの想いは違ったかもしれません。

 

実際のところはC子さんの想いはわかりませんし、少し偏った意見になってしまうかもしれませんが、実は相続トラブルの根源はお金の問題ではなく心の問題であり、コミュニケーションで解決できることも多いのではないかと思います。

 

 

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※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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