コロナウイルス抗原検査・抗体検査はどのような性質を持ち、どの程度参考になるのでしょうか。そして、前回までにも解説してきた通り検査には限界があります。概念が分かりにくい感染症とウイルスについてどう考えるべきか、感染症医の著者が解説します。※本記事は、岩田健太郎氏の著書『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』(集英社インターナショナル、2020年12月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

コロナへの過度な楽観、悲観はどちらもNG

一方、一部の人が主張しているように「日本人の多くはすでに感染している」とか「すでに集団免疫ができている」なんてこともなかったであろうことも、抗体検査は示唆しています。

 

2020年4月上旬に東京で感染者がワッと増えたとき、さまざまな悲観的な意見が出ました。「コロナはすでに日本中に蔓延している」とか「感染者は町にウヨウヨしている」とか「人とすれ違っただけでも危ない」などと発信した人たちがいました。でも、実際にはそんなことはなかったのですね。世界的に見てもコロナに感染していない人のほうがずっと多数派ですし、日本もその例外ではありません(2020年10月時点)。

 

ですから、4月上旬の日本では新型コロナは蔓延していませんでした。現在でもそうです。感染者は町にウヨウヨしていなかった。「人とすれ違っただけで危ない」という形でコロナを恐れるのは、やりすぎだったわけです。一方、「PCRで陽性になった人だけが感染者だ」という見解もやはり間違いです。

 

つまり、「町は感染者だらけだ」という過度な悲観、「PCRで陽性になった人だけが感染者だ」という過度な楽観。コロナ問題は人を極端にします。過度な悲観主義、過度な楽観主義に走りがちです。しかし、悲観主義にも楽観主義にも陥ることなく現実を見据えるのが大事なのですね。

 

抗体検査は、PCR検査が普及していなかった感染早期の日本においてはそれなりに有用なツールでした。しかし、抗体検査も偽陽性、偽陰性のリスクがあります。もう1つ、実は抗体というのは、数ヵ月すると減少してしまうことが多く、時間が経てば抗体を持っていた人も陰性になってしまうのです。よって、流行後半年以上経った現在においては、抗体検査の効用は極めて限定的で、「ほとんどない」と言ってもよいと思います。

 

新型コロナに感染すると、抗体が出来るのかどうか。これは本稿執筆時点では不明です。抗体が出来たら、免疫が出来るのかどうか。これも今のところ分かっていません。おそらく、抗体ができても長期間に及ぶ免疫ができず、再感染する人もいると思います。つまり、抗体検査が陽性だったとしても、「今後、あなたは新型コロナに感染しませんよ」という保証にはならないのです。

 

「自分は過去、新型コロナに感染したのだろうか?」

 

そんな疑問、不安は誰の心にもあるでしょう。しかし、抗体検査を受けて結果が陽性だったとしても、それは身の安全を保証するものではないと、いま一度念を押しておきます。

 

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僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

岩田 健太郎

集英社インターナショナル

なぜ、ノーベル賞科学者でさえも「コロナウイルス」が分からないのか? その理由は日本人独特の「検査至上主義」にあった! 人間の体は宇宙よりも謎に満ちていて、素粒子よりも捉えがたい。そのことを知らないで、「机上の…

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