感染症医が解説…「全国の入院患者すべてにPCR検査」は有害

PCRに限らず、ルーティンで行う検査には偽陽性が付き物です。しかしなぜそのような検査はなくならないのでしょう。感染症医の筆者が解説します。※本記事は、岩田健太郎氏の著書『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』(集英社インターナショナル、2020年12月刊)より一部を抜粋・再編集したものです。

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「念のため」の恐ろしさ…HIV検査偽陽性を事例に

偽陽性の問題について、僕は今までHIV検査で何度となく経験してきました。出産前の妊婦さんや手術前の患者さんに「念のため」という理由で――事前確率は高くないのに――HIV検査が行なわれることがしばしばあります。

 

HIVの検査は感度/特異度がともに高く、すぐれた検査です。しかし「念のために」という理由で事前確率の低い人を検査したとき、陽性結果のほとんどは「ガセ」になります。

 

ですから、出産前や手術前にルーティンでHIV検査をするべきではありません。事前確率を見積もって、高いと判断したときだけ検査をすればいい。しかし実際は、ルーティンで検査することが多い。

 

陽性反応が出ると、こんな連絡が来ます。

 

「岩田先生、大変です。手術前の患者さんに念のためHIV検査をしたら、陽性でした。うちの病院ではHIVは診られませんから、すぐにそちらに転院させます」

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

それで転院してきた人が本当にHIVに感染していた事例は、ごくわずかしかありません。圧倒的多数はガセ、つまり偽陽性です。

 

「あなたの検査結果はHIV陽性です」

 

そう言われた患者さんは、大ショックを受けます。頭の中が不安でいっぱいになります。患者さんのご家族にしても、それは同じだと思います。

 

そうした苦痛は、まったく必要のない苦痛です。そしてまた、僕たち感染症医は偽陽性という理解しにくい問題について、細かく詳しく患者さんに説明して、安心してもらわなくてはなりません。

 

新型コロナのPCRで偽陽性が出たケースでも、同じようなムダが生じます。間違って陽性と判定された人は、入院や宿泊施設での隔離といった無意味な行為を強いられます。その結果、本来入院しなければならない人のスペースが足りなくて、入院しそびれてしまうことも起こりかねません。

 

事前確率が0.1パーセント未満で、なおかつ無症状の人には、どんな検査であれ「念のため」は無用です。それはむしろ、有害ですらあります。にもかかわらず「手術前だから」「出産前だから」という理由でルーティンの検査が今でも行われているのは、ベイズの定理を知らない医者が少なからずいるからです。

神戸大学病院感染症内科 教授

1971年島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院、ニューヨーク市セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンター、北京インターナショナルSOSクリニック、亀田総合病院を経て、2008年より神戸大学。神戸大学都市安全研究センター医療リスクマネジメント分野および医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学病院感染症内科診療科長。著書に『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)、『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)、『ぼくが見つけたいじめを克服する方法』(光文社新書)など多数。

著者紹介

連載感染症専門の内科医が「PCR」原理主義に反対する理由

僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

僕が「PCR」原理主義に反対する理由 幻想と欲望のコロナウイルス

岩田 健太郎

集英社インターナショナル

なぜ、ノーベル賞科学者でさえも「コロナウイルス」が分からないのか? その理由は日本人独特の「検査至上主義」にあった! 人間の体は宇宙よりも謎に満ちていて、素粒子よりも捉えがたい。そのことを知らないで、「机上の…

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