米4月雇用統計下振れの解釈と市場への影響について

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「市川レポート」を転載したものです。

 

●米4月雇用統計は市場予想を下回る結果だったが米国株は金融緩和の長期化を期待して上昇。

●ただ、米雇用環境はこの先一段の改善が予想され、テーパリング開始は来年1月との見方は不変。

●雇用統計の影響は一時的で米長期金利、米ドル、米国株の方向性を決定づけることはなかろう。

米4月雇用統計は市場予想を下回る結果だったが米国株は金融緩和の長期化を期待して上昇

米労働省が5月7日に発表した4月の雇用統計では、非農業部門就業者数が前月比26万6,000人増となり、市場予想の同100万人増を大きく下回りました。また、3月の非農業部門就業者数も、同91万6,000人増から、同77万人増へ下方修正されました。4月の失業率については6.1%と、市場予想の5.8%を上回り、3月の失業率から0.1ポイント悪化しました。

 

予想を下回る雇用統計の結果を受け、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和の長期化観測が強まりました。同日の米金融市場では、雇用統計発表後、米10年国債利回りが急低下し、ドル円はドル安・円高で反応しました(図表1)。

 

(注)データは2021年5月7日20:00から5月8日5:55。日時は日本時間。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]ドル円レートの推移(注)データは2021年5月7日20:00から5月8日5:55。日時は日本時間。
(出所)BloombergL.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

一方、株式市場は緩和長期化観測を好感し、ダウ工業株30種平均とS&P500種株価指数は、いずれも過去最高値を更新しました。

ただ、米雇用環境はこの先一段の改善が予想され、テーパリング開始は来年1月との見方は不変

なお、前回3月の雇用統計は、寒波(2月)の終了や、感染第3波の収束による経済活動の再開、給付金の追加支給など、特殊要因が重なったことで、雇用の大幅増につながったという面がありました。そのため、4月の雇用については、3月の反動減を指摘する向きも一部ありましたが、雇用の増加傾向は続くとの予想が大勢を占めたため、結果的に、市場の反応も大きなものとなりました。

 

弊社では、足元の米雇用環境について、経済活動が再開に向かう初期段階としては、まずまずの状態であり、この先は一段と改善に向かうと考えています。今回の雇用統計の結果を受け、市場では、テーパリング(量的緩和の縮小)の議論開始の時期が遅れるとの声も聞かれますが、弊社では引き続き8月の米ジャクソンホール会議で議論開始が言及され、来年1月からテーパリングが実施される可能性が高いとみています。

雇用統計の影響は一時的で米長期金利、米ドル、米国株の方向性を決定づけることはなかろう

ここで、米実質金利の動きを確認してみると、5月7日の雇用統計の発表を受け、マイナス幅は前日からやや拡大しました(図表2)。

 

(注)データは2021年4月26日から5月7日。米実質金利は10年国債利回りから期待インフレ率、すなわち期間10年のブレーク・イーブン・インフレ率(物価連動債の取引参加者が予測する今 後10年間の年平均物価上昇率)を差し引いたもの。来年の米利上げ回数はFF金利先物市 場が織り込む回数。 (出所)Bloomberg L.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]米実質金利の動きと米利上げの織り込み(注)データは2021年4月26日から5月7日。米実質金利は10年国債利回りから期待インフレ率、すなわち期間10年のブレーク・イーブン・インフレ率(物価連動債の取引参加者が予測する今後10年間の年平均物価上昇率)を差し引いたもの。来年の米利上げ回数はFF金利先物市場が織り込む回数。
(出所)BloombergL.P.のデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

また、フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む2022年の利上げ回数に目を向けると、前日からやや低下していることが分かります。いずれの動きも、金融緩和の長期化方向を示唆するものですが、それほど強いものではありません。

 

したがって、今回の雇用統計を機に、米長期金利の低下、米ドルの減価、米国株の上昇というトレンドが同時に形成される公算は小さいと思われます。そのため、各市場は引き続き、世界的なワクチン接種の進捗、コロナの感染状況、景気動向に加え、米国の金融政策の行方などを注視し、それらの進展次第で、米長期金利、米ドル、米国株の方向性が決まるものと考えています。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米4月雇用統計下振れの解釈と市場への影響について』を参照)。

 

(2021年5月10日)

 

市川 雅浩

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフマーケットストラテジスト

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフマーケットストラテジスト

旧東京銀行(現、三菱UFJ銀行)で為替トレーディング業務、市場調査業務に従事した後、米系銀行で個人投資家向けに株式・債券・為替などの市場動向とグローバル経済の調査・情報発信を担当。
現在は、日米欧や新興国などの経済および金融市場の分析に携わり情報発信を行う。
著書に「為替相場の分析手法」(東洋経済新報社、2012/09)など。
CFA協会認定証券アナリスト、国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員。

著者紹介

投資情報グループは、運用や調査経験豊富なプロフェッショナルを擁し、経済や金融市場について運用会社ならではの情報発信を行っています。幅広い投資家に良質な情報を伝えるべく、年間で約800本の金融市場・経済レポートの発行の他、YouTube等の動画、Twitterでの情報発信を行っています。

著者紹介

連載【市川雅浩・チーフマーケットストラテジスト】マーケットレポート/三井住友DSアセットマネジメント

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