3度目の緊急事態宣言…日本景気は「我慢の時」だが底堅い

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『身近なデータで見た経済動向』を転載したものです。

 

5月のトピック

3度目の緊急事態宣言の発令で、個人消費は4~6月期ももたつく。一方、輸出・生産増加基調で景気動向指数の判断は「改善」に上方修正の見込み、ホームレスなど社会関連データからみても底堅さが感じられる状況。新型コロナウイルスのワクチン接種が進むまで、足元は我慢の時。

1~3月期実質GDP、米国は前期比年率+6.4%のプラス成長だが、日本はマイナス成長が予測される

1~3月期実質GDPは、米国が前期比年率+6.4%のプラス成長になったのに対し、5月18日に発表される日本の第一次速報値は前期比年率▲4%程度のマイナス成長が予測される。米国では新型コロナウイルスワクチンの普及によりパンデミックへの不安が和らぎ、家計や企業に対する政府の大規模な財政出動が成長を後押しした。最大の需要項目である個人消費は、米国では前期比年率+10.7%の2ケタのプラスの伸び率になったのに対し、日本では2度目の緊急事態宣言発令の影響で個人消費支出が前期比で減少したと予測される。

 

4月25日から5月11日までの3度目の緊急事態宣言が発令された。個人消費は1~3月期の前期比減少に続き、4~6月期ももたつく見込みだ。日数が17日間で、昨年4月7日に発令され5月25日に解除された最初の緊急事態宣言の48日間(全国的に発令されていた期間は28日間。4月16日に発令5月14日に解除)より短期間である。

 

緊急事態宣言が発令されている4都府県(東京都、大阪府、京都府、兵庫県)は、最新の2017年度の県民経済計算によると全国GDPの31%である。昨年の最初の緊急事態宣言では全期間加重平均で全国GDPの79%に当たる地域が対象であった。昨年の最初の緊急事態宣言時より個人消費の落ち込みは軽微とみられる。しかし、5月5日の菅首相が緊急事態宣言の延長などについて「今週中に判断」と述べていて、今後の動向は要注視だ。

他国と比べ低い日本のコロナ・ワクチン接種回数、変異株に対するしっかりした水際対策が重要

NHKのHPに掲載されている日本の新型コロナウイルスのワクチン接種回数(100人あたり)は、5月6日に取得したデータで2.8回にすぎず、最も多いイスラエル121.0回、米国の74.1回、ドイツの37.6回に比べかなり少ない(図表1)。今後、接種回数のペース改善が望まれる。

 

 

インドでは、変異株の影響で新型コロナウイルスの感染が急拡大している。変異株に対するしっかりした水際対策が望まれる。日本政府は4月28日、インドやペルーなど6ヵ国・地域を新型コロナウイルスの変異株流行国・地域に指定したと発表した。日本に入国する人に検疫所が確保した宿泊施設で待機するよう求め、入国から3日目に改めて検査を行う。結果が陰性でも、入国から14日間が経過するまでは自宅などで待機することを求める。5月1日から運用が始まった。

 

なお、2020年度の外国人入国者の推移をみると、12月に69,742人まで増加したが、21年3月速報値では19,393人。内訳は、「特段の事情」などの新規入国者が2,017人、ビザを持つ再入国者が17,376人であった(図表2)。

 

2月前半の64.8%をピークに3月後半には56.4%に低下した都内の企業のテレワーク導入率

人流を抑制するために、政府や自治体は出勤者数の「7割削減」を目標に掲げているが、3度目の緊急事態宣言期間の最初の平日である4月26日では、東京や大阪の主要駅では通勤客の目立った減少は見られなかったと報道された。東京都は、従業員30人以上の都内の企業を対象にテレワーク導入率を調査している。20年3月に24.0%だった導入率は、最初の緊急事態宣言発令後の昨年4月に62.7%に上昇した。その後12月には51.4%に低下したが、今年1月に2回目の緊急事態宣言が発令されると1月後半63.5%、2月前半は64.8%と再び60%台に上がった。しかし、そこがピークで低下傾向になり、解除後の3月後半には56.4%まで下がっている(図表3)。

 

 

感染力1.3倍強と言われる変異株に対しては、当初のウイルスに対するよりも一段の警戒が必要な状況なのに、企業の対応がコロナ慣れしてしまっていることを示唆する数字と思われる。

 

なお、3月後半での従業員規模別の導入率は、300人以上(89社)84.3%、100-299人(130社)63.1%、30-99人(320社)45.9%だった。4月は前半・後半に分けた調査は実施せず、5月の早い時期に結果が発表される予定だという。東京都は、感染症の拡大防止と経済活動の両立に向け、テレワークを更に定着させるため、令和3年5月10日より都内中堅・中小企業に対し、テレワークの導入に必要な機器やソフトウエア等の経費への令和3年度テレワーク定着促進助成金申請受付を開始するが、企業の前向きな活用を期待したい。

2回目の緊急事態宣言下での「自粛慣れ」を裏付ける、モバイルゲームのアクティブユーザー数の減少

2回目の緊急事態宣言は今年1月7日に首都圏1都3県に発令、1月13日に大阪府、福岡県など2府5県が追加された。2月2日に栃木県を除く10都府県で延長が決定、首都圏以外の2府4県が2月末で解除、首都圏1都3県は3月21日で解除された。2回目の緊急事態宣言下では飲食店対策が中心だった感が強い。

 

ゲームエイジ総研が、自社のマーケティングデータベースを使用してモバイルゲームのアクティブユーザー数を1回目と2回目の緊急事態宣言期間で比較した分析が興味深い。1回目データとして、20年4月13日の週~5月25日の週の7週分のデータを、2回目データとして21年1月4日の週~3月1日の週の9週分のデータを使用している。期間平均で見ると1回目は3,560.8万人、2回目は3,436.5万人だった。

 

2回目の緊急事態宣言期間では、自粛の中、モバイルゲームを遊ぶというスタイルは1回目の時に比べると少なくなった。2回目の緊急事態宣言では「自粛慣れ」が言われ、1回目の緊急事態下よりも社会活動が活発であった印象だが、モバイルゲームのアクティブユーザー数からもそれが裏付けられた結果となった(図表4)。

 

 

ワクチン接種の進捗状況懸念から、3月の「ワクチン」関連先行き判断DIは57.0と2月から4.4ポイント低下

3月の景気ウォッチャー調査で「新型コロナウイルス」関連判断DIを作成すると、現状判断DIは46.5と2ヵ月連続の上昇となった。「新型コロナウイルス」関連先行き判断DIは、2月分で54.8と20年1月にこのワードが登場してから初めて景気判断分岐点の50を上回ったが、3月分では49.7に低下した。

 

現状判断で「ワクチン」に言及した人は12月・7人、1月・8人と1ケタだったが、2月25人と2ケタになった。3月は19人と2ケタだが、やや低下した。先行き判断で「ワクチン」に言及した人は12月・113人、1月・226人、2月・379人と月を追うごとに増加していたが、3月では230人に減った。「ワクチン」関連先行き判断DIは12月43.4から上昇し1月では50.1と僅かだが、分岐点の50超になった後、2月で61.2まで上昇したが、3月には57.0に低下した。期待が大きかった「ワクチン」が接種進捗率の遅れなどが意識されやや失望感が出て頭打ちとなったことを示唆する数字だ(図表5)。

 

 

なお、「貿易摩擦」など、これまで景気の大きな変動要因になったことがあるキーワード「貿易摩擦」に言及した人は3ヵ月連続皆無だったが「為替」に言及した人は数名出てきた。多くの人が注目したキーワードはほとんどが新型コロナウイルス関連であることには変わりがなかった。3度目の緊急事態宣言最初の適用日となった4月25日から末日までが調査期間になった4月調査(5月13日公表)では「新型コロナウイルス」関連のコメントが悪化する可能性が大きいと思われる。

ロイター短観・QUICK短観とも、4月調査でDIは改善。一方、消費者態度指数はコロナ禍でもたつき

ロイター短観(400社調査)をみると、2月では製造業の業況判断DIは+3と輸出・生産の持ち直し傾向を受けて19年7月(+3)以来19ヵ月ぶりのプラスに転じ、3月+6、4月+13とプラス幅を拡大した。一方、コロナ禍の影響を大きく受けた業種が多い非製造業は14ヵ月連続のマイナスが続いているものの、4月▲3と3月の▲5から改善している。一方、QUICK短観をみると、2月では製造業の業況判断DIは+2と20年2月(+1)以来12ヵ月ぶりのプラスに転じ、3月+4のあと、4月+17と2ケタのプラスになった。また、非製造業は足元堅調で4月調査は+18と3月の+9から改善している(図表6)。

 

 

日銀短観3月調査で大企業・製造業・業況判断DIは+5と19年9月調査以来のプラス。一方、大企業・非製造業・業況判断DIは▲1とマイナスである。先行き6月までの見通しは、製造業+4、非製造業▲1と、もたついた数字である。

 

なお、消費者マインドはコロナ禍で、もたついている。4月の消費者態度指数(二人以上世帯・季節調整値)は34.7と、前月差▲1.8ポイントとなった。但し2月よりは高い水準にある。

3月生産指数前月比は上昇。景気動向指数・一致CI前月比も上昇に。景気判断は「改善」に上方修正

3月の景気ウォッチャー調査で、「半導体不足」に関しコメントしたウォッチャーは、現状判断で5人、先行き判断で7人である。「半導体不足」関連判断DIを作成すると、現状判断DIは45.0、先行き判断DIは35.7と景気判断分岐点の50を下回った。

 

鉱工業生産指数・3月分速報値・前月比は+2.2%と、当該月では懸念された半導体不足の影響が予想外に小さく、2ヵ月ぶりに上昇に転じた。経済産業省の生産指数・基調判断は「生産は持ち直している」で据え置きである。直近の景気の山の20年10月分の指数は105.6だった。21年3月分速報値97.7を4月分製造工業生産予測指数の前月比+8.4%で延長すると、105.9となり、2020年10月分を上回ることになる。鉱工業生産指数は水準もそれなりに回復してきたことがわかる(図表7)。

 

 

3月分の景気動向指数・一致CIは前月差で下降になると予測される。景気の基調判断が景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」に「上方への局面変化」から上方修正される条件は「原則として3ヵ月以上連続して3ヵ月後方移動平均が上昇かつ当月の前月差の符号がプラス」になることである。3月分では3ヵ月後方移動平均が9ヵ月連続して上昇する可能性が大きく、一致CIの前月差がしっかりしたプラスになりそうなので、「改善」への上方修正が期待される状況だ。

自殺者数3月分で9ヵ月連続増加。一方、東京23区路上生活者数統計史上最低。完全失業率低下

警察庁の自殺者数は3月分で+10.6%と9ヵ月連続増加となった。新型コロナウイルス感染拡大により20年の自殺者数は、2万1,081人、前年比は+4.5%と11年ぶりに悪化に転じた後、21年は1~3月平均で前年比+8.7%の増加になっている。

 

悪化傾向の自殺者データに対し、直近データも改善傾向継続となったのが、東京23区の路上生活者(ホームレス)数である。21年1月で549人と前年1月の557人より、減少した。また、これまで最少だった昨年8月の550人を僅かに下回った(図表8)。95年2月から調査結果があるこのデータで過去最多は99年8月の5,798人でそこから減少傾向にある。社会の安定を示唆していよう。

 

 

6年連続で戦後最少を更新した刑法犯の認知件数は21年1~3月期も前年同期比▲18.1%と減少傾向にある。コロナ禍で外出する人が減った面もあるだろうが、経済的に困った人が衝動的に犯罪に走ることが少なくなってきて、世の中が落ち着いていることを示唆している数字だろう。

 

雇用環境もそれほど悪化していない。これまでのところ雇用調整助成金特例措置などの政策対応が効いているのであろう。3月の雇用統計も、有効求人倍率は1.10倍と前月に比べ0.01倍の改善、完全失業率は2.63%と前月の2.94%から低下した。20年4月の2.58%以来の水準である。

巣ごもり中、依然コミックス効果も大きく、3月分雑誌の推定販売金額は前年同月比4ヵ月連続増加

20年のJRA(日本中央競馬会)の売得金・年初からの累計金額の20年は前年比+3.5%と9年連続の増加になった。21年は2月21日現在+0.6%だったが、20年の同時期が無観客レースになった反動が出た2月28日現在+3.5%と急に伸び率が高まった。5月2日時点まででは+8.0%の伸び率になっている。

 

興行通信社調べの映画動員ランキング(4月23日集計)で『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が、公開28週目でランキング6位に入った。興行収入は397.4億円になり、あと少しで400億円というところまできたが、東京や大阪で緊急事態宣言が発令されたので足踏み状態になろう。

 

21年3月分の雑誌の推定販売金額は前年同月比+7.7%と4ヵ月連続増加したが、依然コミックス効果も大きいようだ。3月の書籍の推定販売金額は前年同月比+5.9%と、こちらも4ヵ月連続増加した(図表9)。

 

 

緊急事態宣言再発出下の巣ごもり需要が出ている可能性が大きい。出版科学研究所の「出版月報」2021年4月号に掲載された「2020年コロナ禍の余暇活動と趣味雑誌」によれば、好調だったジャンルとして、キャンプ誌、ゲーム誌、アニメ情報誌、模型関連誌が挙げられている。

国民に勇気と希望を与えてくれる、日本人アスリートの世界の舞台での活躍が目立つ

このところ日本人アスリートの、国民に勇気と希望を与えてくれる活躍が目立つ。コロナ禍での明るい話題であろう。プロゴルファーの松山英樹はゴルフの最高峰であるマスターズ・トーナメントを日本勢男子で初制覇した。4月30日には内閣総理大臣顕彰が授与された。

 

MLBでもエンゼルス大谷翔平が、ベーブ・ルースに肩を並べる二刀流の大記録を達成し話題になった。4月26日(日本時間27日)のレンジャーズ戦で「2番投手」として先発登板。5回4失点で自身1,072日ぶりの勝利となる今季初勝利を挙げた。本塁打数で首位につけている選手が先発登板するのは、1921年6月13日のベーブ・ルース(ヤンキース)以来で、100年ぶりの歴史的登板を白星で飾った。

 

NBER(全米経済研究所)によると、米国の景気で1921年6月は20年1月を山とする景気の後退局面の最終局面で、21年7月を谷として景気は23年5月まで拡張局面になった。ベーブ・ルースの活躍が当時の米国の人々を勇気づけたのではないかと思われる。なお、5月4日現在(日本時間5月5日現在)のホームラン数は9本でマルティネス(レッドソックス)、バクストン(ツインズ)と並んでア・リーグの首位タイ、昨年の7本を上回っている(図表10)。

 

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『3度目の緊急事態宣言…日本景気は「我慢の時」だが底堅い』を参照)。

 

(2021年5月6日)

 

宅森昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

三井住友DSアセットマネジメント株式会社 理事・チーフエコノミスト

旧三井銀行(現三井住友銀行)で都市銀行初のマーケットエコノミストを務める。さくら証券チーフエコノミストなどを経て現職。
パイオニアである日本の月次経済指標予測に定評がある。身近な社会データを予告信号とする、経済・金融のナウキャスト的予測手法を開発。その他、「景気ウォッチャー調査」などの開発・改善に取り組んできている。「より正確な景気判断のための経済統計の改善に関する研究会」など政府の経済統計改革にも参画。「景気循環学会」常務理事。
著書に『ジンクスで読む日本経済』(東洋経済新報社)など。

著者紹介

連載【宅森昭吉・理事・チーフ エコノミスト】エコノミックレポート/三井住友DSアセットマネジメント

【ご注意】
●当資料は、情報提供を目的として、三井住友DSアセットマネジメントが作成したものです。特定の投資信託、生命保険、株式、債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。
●当資料に基づいて取られた投資行動の結果については、三井住友DSアセットマネジメント、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当資料の内容は作成基準日現在のものであり、将来予告なく変更されることがあります。
●当資料に市場環境等についてのデータ・分析等が含まれる場合、それらは過去の実績及び将来の予想であり、今後の市場環境等を保証するものではありません。
●当資料は三井住友DSアセットマネジメントが信頼性が高いと判断した情報等に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。
●当資料にインデックス・統計資料等が記載される場合、それらの知的所有権その他の一切の権利は、その発行者および許諾者に帰属します。
●当資料に掲載されている写真がある場合、写真はイメージであり、本文とは関係ない場合があります。

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧