歯科業界は「身内が歯科医だから、自分も歯科医になった」という二世歯科医、三世歯科医が多い世界です。親が歯科医だから、自分も歯科医になる。親の医院を継ぐのは当然のこと。これらが業界の常識です。ところが近年、「親の医院は継ぎたくない」という子世代や、「うちは継がなくていい、歯医者にならなくていい」という親世代が急増し、自ら廃業を選ぶ歯科医院が増えています。「大廃業時代」が訪れているいま、歯科医院経営を成功させるにはどうすればよいのでしょうか?

高齢化、集客競争…「自ら廃業する歯科医院」が増加中

全国の歯科医院は、厚生労働省の医療施設動態調査によると、2018年10月から2019年9月までの1年間に1451施設が開設・再開する一方で、1634施設が廃止・休止し、113施設が減少しました。前年の2017年でも、331施設減少していることから、歯科医院は確実に年々減り続けていることになります。

 

これらのなかには、いったん休止する歯科医院も含まれますが、廃止する歯科医院が圧倒的に多いのです。つまり、自ら医院を閉めてしまう歯科医院がたくさんあるということです。

 

理由の一つは、医師の高齢化が挙げられます。60歳以上の歯科医師が全体の31%を占める(厚生労働省2018年概況調査より)というように、高齢化はかなり深刻化しています。

 

また、歯科医は激しい過当競争の波にさらされています。その数はコンビニエンスストアよりも多くなっていて、コンビニエンスストアは全国に5万5872軒(2020年10月現在、JFAコンビニエンスストア統計調査月報より)、一方で歯科医院の数は実に6万8327施設(2020年1月末現在、厚生労働省医療施設動態調査より)。コンビニよりも1万施設も多いのです。

 

コンビニも歯科医院も便利なところにより多く出店します。そのため都市、なかでも駅近くには数多くの歯科医院がひしめいています。郊外になればコンビニと同様、歯科医院の数も減りますが、周辺の人口が減り、行きかう通行人の数も少なくなりますから、やはりパイの取り合いになるのは自明の理です。パイの取り合いから安定した患者を確保できなければ、経営難に陥るのが必至です。

 

「子は親の医院を継ぐもの」という業界の常識が崩壊

そして、過当競争であることとも関連しているのですが、開業している歯科医師の方たちが歯科の将来性そのものを憂いて子どもに継がせたくないと思っていることも大きいのです。子どもの側も親の医院を継ぎたくないと思い、他の道に進むことが増えています。継承する相手がいないため「医院を畳む(廃業)」というケースが多くなっているのです。

 

本来、歯科医院の場合、院長のお子さんが後を継ぐというケースがいちばん多く、そのため二世、三世が多い世界です。歯科大学で「なぜ歯医者になるの?」と質問すると、「親が歯医者だから」という答えが9割くらいだと聞きます。

 

そうした状況が当たり前の「業界」であるにもかかわらず、子どもが継がないという事態に陥っているのが歯科医の世界なのです。親の側も「これからの歯科医は厳しそうだ」と考え、「歯医者にならなくてもいいよ」と言うケースが増えています。

 

歯科医院を続けても儲からない、当然、拡張や分院などもできない、その結果として「夢をもてない」のです。廃業しないまでも、疲れて、やる気も希薄になって、それでも通ってきてくれる患者さんたちのために歯科医院を続けているという歯科医の方がたくさんいます。

 

もちろん「儲け」以外のモチベーションを高めるための要素があればいいのでしょうけれど、それさえも見つからずにいるのが現状です。

 

医院を開くだけで儲かる「すばらしい時代」は終了

私が学んだ東京歯科大学は歯科関連の大学ではいちばん歴史のある大学で、三世も多く在籍する大学です。そんな大学で学ぶ自分の周りの学生でさえ、自発的に「歯医者になりたい」と主体的に考えていた人間は一人もいなかったように感じていました。つまりは「親が歯医者だから自分も資格を取って、末はその医院を継ぐ」という漠然としたレールの上に乗っているだけなのです。

 

実は、私もまたそうした二世歯科医の一人なのです。私の母も叔父も歯科医です。なお、この叔父の歯科医院をのちに私が継ぐことになります。

 

母の世代、現在60代後半から70代の歯科医師の時代はたいへんいい時代だったと聞きます。医院を開けば、患者さんの行列ができます。母親からも聞きましたが、立地としてはあまり良くない場所でも、雨の日でも行列ができたというのです。今となっては信じられない光景です。そこまでではないとしても、かなり待たされてようやく治療が受けられる状態であったようです。

 

それが患者さんにとっていいことかどうかは疑問ですが、少なくとも歯科医院の経営にとってはすばらしい時代だったと思います。

 

しかし、もはやそんな時代は望むべくもありません。だからこそ、どうすればいいかを真剣に考えなくてはいけない時代なのです。

 

今後、医院の存続には「経営者の視点」が不可欠

私や周囲の二世、三世の歯科大学生たちは、そんな親の世代の話を聞いて育ち、そうした歯科医全盛期がずっと続いているかのような錯覚を抱かされていました。

 

それが理由なのか、歯科医には、経営という面にあまり関心がない方が多いように思います。マーケティングや差別化、スタッフの育成などといったマネジメント面に無頓着なのです。

 

通っている学部は歯科医師になる、国家試験に合格するために通っているところなので、経営についてあまり学べません。マーケティングについても学べません。会計についても同じです。大学卒業時は、学生全員、そうしたジャンルの知識は皆無なのです。あとは、卒業後、親の医院に入って帝王学を学ぶか、あるいは勤務医を経験するのか。その間に自ら学ぶしかありません。

 

しかし、勤務医になる際に、その歯科医院が医院を管理、経営するための数字について学べる場所でないと、経営面が分からないままに開業することになります。あるいは、親の医院を継ぐということになってしまいます。

 

医師というものが患者さんを助けるのが本分であっても、ビジネスである以上、他との差別化は必要なはずです。

 

地域に自院しか存在しないのであれば、差別化は必要ありません。これは医院も食料品店も衣料店も同じです。

 

しかし、歯科業界もスクラップ&ビルドではあるものの、とても数が多く、特に大都市であればあるほど、過当競争になることは明確です。

経営がわからない「一歯科医」のままではずっと半人前

ある時期に、私もそうした「経営戦略」の必要性に気づきました。普通に親の医院を継いで、それまで通ってきてくれた患者さんも引き継いでいる限り、なかなかそうした視点をもつことは難しいのかもしれません。

 

もちろん、開業医だけでなく勤務医として診療にあたってきた人たちも同様です。いや、むしろ勤務医の方が経営に関わることがなかっただけに、どうしても「一歯科医」の視点にとらわれてしまいがちなのです。

 

例えば、私のところには多くの歯科医師が面接に来ますが、仮にキャリアが10年以上であっても、経理上の数字に関する話題には、ほとんどの人が付いてこられません。

 

歯医者だけではありませんが、医院経営にレセプトは欠かせません。レセプトとは、ご承知のとおり、保険者に請求する診療報酬明細書をいいます。診療報酬というのは、診療に要した費用。診療報酬点数表に基づいて点数で算出します。この点数を組合健保や協会健保、その他の保険者に診療報酬として請求する業務をレセプト業務といいます。このレセプトの中身に対しても、多くの歯科医の方たちが無関心なのです。

 

他の業種ならば、大学を出て、10年間の経験を積めば一人前になってしかるべきでしょうけれど、歯科医の場合は、10年勤務医をして、分院長になっても、医院経営にかかわる経理も何も分からないということになります。

 

ただ、これは当事者である医師の責任ばかりではありません。若い医師たちを雇う院長の方々の秘密主義も関係しています。自院の数字、つまりは成績書を他人に見せたくないという人が多いのです。経営状況を出してしまった場合、儲かっていれば、「給与を出し渋っているのではないか」と思われるかもしれません。逆に経営状態が厳しければ、「ここにいると危ない」と思われてしまうかもしれないからです。

 

淘汰される医院、生き残る医院の境目は「経営戦略」

勤務医などを経て、親の歯科医院を継ぐ、あるいは一念発起して自分の医院を開業するところまでこぎつけたとしましょう。

 

歯科医師としての技術はかなり向上しているはずです。何人もの患者さんが「常連」になってくれるかもしれません。しかし、たとえ技術は優れていても、それだけでは医院の経営そのものは、早晩、立ち行かなくなってしまう可能性が高いのです。

 

そして、1医院を経営していて儲かっていないと、経費や人件費をどう切り詰めるかということを考えがちです。医院経営は基本的には待ちの営業ですから、一気に売上を増やすというのは簡単ではないので、そうなるわけです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

 

しかし、人件費などを切り詰めた状態で立て直していくことは難しいものです。

 

人件費というものはとても削りやすいのですが、人件費を削れば削るほど、技術やサービスを削ることになります。資格者でない方を雇うとか、アルバイトに頼るなどの方策を取らねばなりません。

 

または何から何まで自分一人で対応するという具合です。スタッフを雇っていても、その人たちに任せられる仕事に限りがあれば、結局、自分でやらなくてはいけないことが増えます。しっかりとしたアシスタントがいるほうが治療に向かう時間も増え、質は当然上がりますし、サービスも向上します。

 

さらに気になるのは、特に若い人たちは、立地で高望みをしてしまう人も多いことです。ですから、確かに人通りの多さや駅に近いなどの立地条件は、ほかの業態のお店と同じで生命線です。しかし、そういう場所は当然家賃が高いものです。しかも過当競争で同じような歯医者が近くにたくさんあるでしょう。代々の医院を継ぐのであれば別ですが、確かな戦略がなければ、そうした場所に出店するのは、逆にリスクが高いわけです。

 

これからはますます淘汰の時代です。端的にいえば、際立った専門性があるか、総合歯科医院として規模の大きなところしか生き残れなくなると私は思っています。

 

 

河野 恭佑

医療法人社団佑健会 理事長

株式会社デンタス 代表取締役社長

 

 

※本連載は、河野恭佑氏の著書『歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略

歯科医院革命 大廃業時代の勝ち残り戦略

河野 恭佑

幻冬舎メディアコンサルティング

コンビニエンスストアを1万軒以上も上回る歯科診療所の施設数。 一方で少子化によって患者は年々減少し、過当競争が激化しています。 年間で1600軒もの施設が廃業し、「大廃業時代」といわれる歯科業界で生き残っていく…

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