人口は減少する一方でも、クリニックの数は年々増加中。患者の奪い合い激化、診療報酬点数の引き下げ、人材不足…近年、「どんなクリニックでも生き残れる時代」が終わりつつあります。そこに追い打ちをかけたのが、コロナ禍による収益激減。閉院を考えざるを得ない施設が増えています。経営がどんどん難しくなっていく今後、クリニックを存続させるには、どうすればよいのでしょうか。

差別化戦略は困難…ますます難しくなるクリニック経営

クリニックの院長はいわば「一人社長」です。勤務医時代のように診察だけしていれば済むわけではありません。診察に加えて、月初のレセプトや給料計算に始まり、月末には業者への支払いや給与振込み等の雑務があります。

 

さらには、会計帳簿を作成するため、領収書等の整理もしなければなりません。「診療が終われば、仕事が終わり」だった勤務医時代とは異なり、プライベートな時間をも侵食してしまうほど、やらなければならないことが山積みでしょう。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

それに加えて求められるのが「経営」です。「雑務から解放されて、診療に専念したい」「できる限り患者さんのために時間を使いたい」という希望があったとしても、スタッフを雇用し、クリニックを存続させるためには“経営者”としての責任をまっとうしなければなりません。人材が集まらない、人の出入りが激しい、スタッフ間の人間関係がよくない…等々、人材に関する悩みも尽きないでしょう。

 

一昔前のようにどんなクリニックでも生き残れる時代ではなくなりつつある近年、生き残っていくためにはなにかしら手を打たなければならない、という危機感を抱かれている方は少なくないようです。

 

経営コンサルタントである私のもとには「差別化が必要なのは分かるけれども、どう差別化したらいいか分からない」という声が多く寄せられます。おっしゃるとおり、どこから手を付けていいのか分からないのが普通だと思います。

 

クリニックの場合、日々の業務は診療ガイドラインに則って行われるため、差別化しにくい分野であることは確かです(患者はどこの医療機関にかかっても一定品質以上の医療サービスを受けられるという意味では、差別化しにくいことにメリットがあります)。

 

少し前までは、ヒアルロン酸注入や疲労回復注射、レーシック手術等、自由診療の領域にサービスを広げていくことで他のクリニックとの差別化ができた時代もありましたが、今となってはそれも陳腐化したものとなりました。

 

保険診療の場合、価格における差別化はできませんし、自由診療においても商品価値を下げるだけの低価格戦略は“体力”を消耗することにしかなりません。

 

そう考えると、医療経営における「差別化戦略」はますます難しいように思えます。クリニックの独自性はどうやって出せばよいのでしょうか?

クリニックの成功には「経営力」が不可欠

医療介護の業界は、国の政策により外部環境が変化します。超高齢社会の到来により、医療費を少しでも削減するために診療報酬点数を引き下げる動きは止まりそうもありません。クリニックの収益を維持するために、人件費を削減せざるを得なくなれば、医療サービスの質を担保できなくなる恐れもあります。飲食店のような口コミ・レビューサイトも誕生し、クリニックは今まで以上に「患者から選ばれる」存在になっています。

 

さらに、人口は減少の一途をたどっているにもかかわらず、クリニックの数は年々増加しています。「コンビニより多い歯科医院」というフレーズを一度は耳にしたことはあると思いますが、同じ医療分野でも歯科業界での競争は激化しており、今後も淘汰が進んでいくと考えられます。

 

生き残るために競争力が求められる歯科業界において、成功しているクリニックの多くは早くから「経営」の概念を取り入れています。理想の診療を追求するだけでは経営は成立しません。「歯科は医科よりも10年早く進んでいる」といわれているように、医科にとって歯科業界の動向は対岸の火事ではないのです。患者の奪い合いは、今後も激しさを増していくことでしょう。

 

そこに追い打ちをかけるようにコロナ禍が直撃したことで、大幅な減収減益の憂き目に遭ったクリニックは少なくないのではないでしょうか。日本での感染が広がった2020年3月からの数ヵ月間はいうまでもなく、第3波の襲来により、2021年1月に7都府県に再び「緊急事態宣言」が出される等、予断を許さない状況は続いています。

 

2020年3〜5月の推移を見ると、売上は対前年比30%減というクリニックが多いようですが、耳鼻科や小児科では対前年比90%減というニュースも出ています。70歳を超える院長先生の中には「閉院を考え始めている」という話も私の耳に入ってきます。「ここが潮時」と引き際を考えているドクターは別にして、どう継続させていくかを考えなければなりません。

 

当面の資金繰りを最優先し、融資による資金調達を行い、スタッフの雇用調整により人件費をコントロールする。家賃の減額要請により固定費を削減し、資金を確保する…。ここまですれば当面は凌げるかもしれませんが、あくまでも対症療法です。「経営者」の仕事は、これからのクリニック経営の舵取りをすることなのです。

 

経営に限らず、変化していく時代において生き残るのは「強い者」ではなく「環境に適応した者」だといわれます。いわゆる「適者生存」の理論です。未来は不透明で予測不能であることを、コロナ禍は如実に示しています。コロナによってまさに、院長の経営力が試されているのです。

 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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