「逃げる」ことが危機を深刻化させる
前回の続きです。自社で簡易なデューデリジェンスをしてみて、やはり会計上ではなく、資金繰り上厳しい状況であることがわかりました。
ではどうするか。病気を重くしない、こじらせないようにしなければなりません。まず、声を大にして言いたいのは「逃げるな!」ということです。これは経営悪化から本格的な危機へと陥らないための鉄則です。
ある企業の場合、黒字経営だったのに、あるとき、銀行への月々の返済が滞りそうになっただけで、銀行からの電話にも出ないで、ずっと逃げていた。そしたら、銀行が保証協会に投げて代位弁済されてしまっていた。
その会社の社長は七十歳代の分別ある方でしたが、それをもってもこうです。返済のためのお金がないと知った経営者の多くが逃げようとする。でも、いくら逃げ回っても、逃げ切れるわけではないのです。
まず、多くの場合、金融機関に融資の返済ができなくなることから本格的な危機がはじまります。そして社長が逃げることが、危機を深化させます。払えないから逃げて、手を打たない。すると、督促がくる。「期限の利益」がなくなり、一括返済を迫られる。分割で払えない人が一括で払えるわけもなく、そこでまた逃げる。
すると、いよいよ差押えとなり、事業も自宅も失う、というふうに、どんどん深刻になっていきます。元凶は逃げるという行為です。
しかし、なぜ逃げようとするのでしょう。それは、何をしていいかわからないからです。こういう場合に、どう対処すべきかを知らないのです。教えられることもなく、相談相手もいない。私は、これは恐るべきことだと思います。
一般的には、危機のとき人はパニックになりがちだから、対応をマニュアル化すべきだといいます。地震のときは、すぐ火を消して机の下にもぐる。津波が来たら、一目散に海岸から離れて高いところに上がる。でも、経営危機への対応は教えられていないのです。
返済が苦しくなったら、まずはリスケジュールです。
正面から金融機関に向かい合い「リスケ」の相談を
金融機関にわけを話して返済条件の変更(リスケジュール。「リスケ」とも言う)を頼み込みます。それがオーソドックスな対応です。
当面、たとえば、利息だけの支払いでしのげれば、ひとまず態勢立て直しの余裕ができます。率直に、誠実に、正面から金融機関に向かいあってください。「リスケ」は難しくありません。銀行に説明して協力をお願いするだけなのです。それだけで、危機を入り口で食い止めることができます。早期治療ですね。
どの段階でも打つ手はあるのですが、やはり、逃げることがいけないのは、対応が遅くなってしまうからです。早め早めに手を打てばなんでもなかったことが、逃げることで、時間がどんどん過ぎていって、最悪の事態を招くまでになります。小さな切り傷が、消毒しなかったら化膿して手術が必要になるようなものです。
返済を初めて止める段階で「リスケ」を交渉するのは簡単ですが、延滞期間が数ヵ月も続き自宅が差押えされそうになってしまった段階での再生には、打てる手が狭まり、再生できる選択肢をなくしていきます。非常に苦しく辛い部分も出てきます。それに、終結までに長い努力が必要になります。
早期発見、早期治療ということが、やはり事業の再生の現場でも必須です。