今回は、中小企業に多い「黒字倒産」がどのようにして引き起こされるのかを見ていきます。※本連載は、株式会社アセットアシストコンサルタントのCEO兼統括コンサルタントを務める大森雅美氏の著書、『銀行から融資を受ける前に読む』(旬報社)の中から一部を抜粋し、中小企業経営者が自社の問題点をいち早く察知し、スムーズな資金繰りと堅実な事業経営を実現するためのポイントを紹介します。

「売上」の入金前に「支出」が払えず倒産に・・・

経営というものは、複眼的にいろいろな要素を視野に入れて作り上げる、いわば〝総合芸術〟だと表現する社長もいれば、奥が深いと唸る社長もいます。売上げに対する営業戦略から、管理システムの効率化、人事・労務の戦略と、数値に基づく財務戦略以外にも多角的視野が同時並行して稼働していますから、単一の視点だけから問題を解決することはできません。

 

それでも、中小企業の経営という〝芸術〟を完成させるには、お金の出入りを把握して、予測を立てることから始まります。決算書重視の経営計画をしていると、利益が出ているのに倒産する会社を生み出します。

 

決算では黒字なのに、儲かっているのにつぶれるのはどうして、と不思議に思う場面に遭遇しませんか? みなさん意外に思うかもしれませんが、実際珍しくありません。倒産した中小企業のなかで、黒字倒産はかなり多いのです。売上げが、現金として入金される前に、先に支出するべき金額が払えずに会社が倒産してしまうことがあるのです。

手持ちの資金を「枯渇させない」ことが重要

具体的に、テレビ業界で説明しましょう。

 

番組が放送されるまで、どんな作業になるかといえば、テレビ局と番組を作る契約をします。そこから調査、そして取材、撮影があって、それが終わると映像素材を編集し、テロップを入れ、ナレーションを入れてテレビ局に納品します。その間、お金が入らずに、どんどんお金が出ていきますね。

 

とくに海外取材などがあれば、渡航費・滞在費だけでなく通訳やガイドも雇いますし、国内でも長期密着取材などしたら交通費・滞在費が大変です。カメラや音声関係の機材レンタル料もばかになりません。それから、意外にお金がかかるのが編集などポスト・プロダクションと言われる取材後の作業です。スタジオ費だけで数十万円かかることもあります。

 

取材や編集など制作経費だけでなく、会社のスタッフや撮影してもらったカメラマンなどの人件費も出ていきます。実はこれが大きい。その間、お金はずっと出っ放しです。それで、テレビ局からお金が入ってくるのは、通常は放送した月の翌月の末です。放送が月のはじめだと、放送から入金までに二ヵ月近いギャップがあります。取材開始からお金が入るまで、長い場合は、一年ぐらいかかることがあります。

 

会社の帳簿に売上げが計上されるのは役務の提供時点、つまり納品または放送のときでしょう。ところが、実際にお金がテレビ局から入ってくるのは、最長で二ヵ月後になる。会社によっては、受注した時点で売上げを計上するところがあり、その場合のギャップは一年以上になってしまいます。

 

それまでは、売上げは計上されていても、お金は一円も入っていないのです。その間に、人件費やその他の経費の支払いがある。経費にはいろいろあって、業種によって原材料費が大きいとか、費目は違ってきますが、先にどんどん支出がある。それで、実際にお金が手元に入ってくるまでのある時点で、資金が枯渇して事業が止まってしまうことがあります。これが、資金繰りができなくなったという状態です。

 

一年を通してみれば黒字なのに、資金繰りができなくて行き詰るのです。こうした黒字倒産のメカニズムを知ると、資金繰りこそ経営の要であることがあらためてわかります。

 

事業自体は利益を出しているのに、当座のお金がないために倒産してしまうのは、実にもったいないですね。

銀行から融資を受ける前に読む

銀行から融資を受ける前に読む

大森 雅美

旬報社

事業が難しい状況になれば、誰でも憂鬱でうなだれてしまうものです。ですが、ここで差が出ます。この本なら、うなだれずに、顔をあげて前に進む心構えと考え方を持てるでしょう。 日常的なことから、いざという時に役立つ知識…

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