定年前後はお金に関する様々な誘惑があり、危険な罠にはまって老後破綻に陥る人も多いです。しかし、50歳を過ぎたらするべきこと、してはいけないことを知っておけば、老後のお金の不安は解消できます。今回は、60歳で定年退職した元部長が転職し、給料が半減したにも関わらず浪費を繰り返して家計が毎月赤字になっている事例の解決策を紹介します。※本連載は、山中伸枝氏の著書『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

60歳元部長、転職で給料半減も浪費癖が抜けず…

Fさんは59歳。60歳からのセカンドキャリアは、転職を考えています。いまの役職は部長です。幸いなことに60歳まで役職定年という名の肩たたきに遭うこともなく、Fさんは部長として思う存分威張ってきました。そして間もなく60歳。

 

選択肢は、雇用延長で会社に残る。この場合、給料は時給制になり大幅ダウン。部長の給料に比べたら、それこそ3分の1くらいに落ち込みます。

 

次に取引先への出向。給料の減り方は雇用延長よりましとはいえ、収入はほぼ半分になります。

 

もう1つは転職です。これはいまの会社から完全に離れるパターンで、収入は転職先の規定によりますが、Fさんは部長職を務めてきた自負があり、転職活動をすればきっと引く手あまたに違いないと考えています。

 

それから3年後。Fさんは転職していました。でも、引く手あまたなんてことはなく、面接を受けては落ち、受けては落ちの繰り返しで、ようやく小さい会社の営業次長として入社しました。

 

結局、給料は半減です。とはいえ、前の会社で部長だったときの月給が手取りで60万円でしたから、半減とはいえ30万円は確保できています。子供も独立しているので、夫婦で生活していくには十分なお金です。このまま65歳まで働かせてくれるということなので、どちらかといえば恵まれたほうでしょう。

 

ところが、Fさんの顔色は冴えません。理由は、どうも前の会社にいたときの収入に合わせた生活から抜け出せずにいるようなのです。子供が独立したから食費が浮くかと思いきや、夫婦で外食する機会が増えてしまいました。妻に言わせると、2人分の食事ではつくる気になれないそうです。

 

Fさんのゴルフ趣味も相変わらずで、現役の頃みたいに接待ゴルフがなくなる分、回数が減るかと思いきや、健康維持という名目でむしろ回数は増えたくらいかも知れません。車は軽自動車に乗る気がせず、大きなセダンに乗っており、「燃費が悪くてね~」が口癖に。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そのほか、転職先では少しでも皆に馴染もうとして、部下をしょっちゅう夜の呑みに誘い、気前がいいことに全額Fさん持ちで呑み歩いていました。

 

妻も専業主婦のまま、近所でお付き合いのある家の奥様たちと、週に2回のペースでランチ会を催し、さらに習い事も続けていました。

 

旺盛な消費は日本経済を支えてくれるのかも知れませんが、すでにFさんの家計は火の車状態でした。当然、これだけの支出を月30万円の給料で賄えるはずもなく、毎月10万円以上の赤字を出していました。

 

転職してから3年間で累積した赤字は、かれこれ400万円近くになろうとしています。しかもFさんの場合、その赤字を全部、退職金の取り崩しで賄っていました。退職金は2000万円と、この世代では非常に恵まれていたほうですが、すでにそこから400万円を取り崩してしまったのです。

 

さらにFさんにとって頭痛のタネは、2人の娘の存在です。もちろん娘は可愛いのですが、そろそろお付き合いをしている彼と結婚しそう。結婚式を挙げるに際して、2人ともFさんのお財布に期待しています。

 

Fさんはある日、ふと思いました。

 

「このペースで取り崩していたら、生活費の赤字を埋めるだけで、あと12年もしたら退職金が全部なくなってしまう。しかも娘2人が結婚するとなったら、少なくとも1人につき150万円くらいの挙式費用は面倒を見てやらなければならないだろう。2人で300万円。金融資産は退職金のみが頼りだから、このままだと老後破産が目に見えている」

 

ようやくFさんは事の深刻さに気付きました。とにかく節約しなければならない。急きょ、妻と話し合って、これからは節約を心がけようという結論に達しました。

 

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50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

山中 伸枝

東洋経済新報社

定年前後の5年間、お金との付き合いには罠がいっぱいあります。老後の生活が始まる前に破綻してしまう人もいるくらい、とっても危険な罠です。この本では、その危険な罠にはまらないよう、筆者自身が実際に本人たちから聞いた…

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