定年前後はお金に関する様々な誘惑があり、危険な罠にはまって老後破綻に陥る人も多いです。しかし、50歳を過ぎたらするべきこと、してはいけないことを知っておけば、老後のお金の不安は解消できます。今回は、「老後の資金作り」のために多くの生命保険に入ることの是非について考えていきます。※本連載は、山中伸枝氏の著書『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

生命保険は「保障」と「資産運用」を別々に考えるべき

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

Cさんは54歳。大学を卒業して大手メーカーに就職。転職をすることもなく、このまま無事に定年まで勤めあげることになりそうです。2人の子供は、すでに社会人として独立しています。2歳年下の妻は年収103万円の範囲内でパート勤めです。

 

55歳で役職定年を迎えるCさんですが、給料が2割減になったとしても、子供の教育費はかからず、住宅ローンもほぼ完済。ただ、気になるのは貯蓄が銀行の定期預金で300万円程度と少ないこと。なぜならCさんは無類の生命保険信者だったのです。「老後の金融資産ですか。大丈夫です。僕には生命保険という強い味方がありますから」というのが、Cさんの口癖でした。

 

Cさんが加入している生命保険は、まず定期付終身保険です。Cさんが亡くなったとき、妻に2500万円の死亡保険金が支払われるのだそうです。

 

「この保険金があれば、遺族年金になったとしても、妻にお金の苦労をさせることはないでしょう」とCさん。奥様想いですね。定期付終身保険以外に、終身がん保険と終身医療保険もセットで加入。月々の保険料は全部で2万5000円です。

 

ほかにも、個人年金保険がありました。これ、Cさんが亡くなったときでも、妻がやはりお金に困らないようにと加入したもので、契約者はCさんで、年金の受取人は妻になっています。本当に奥様想いですね(笑)。

 

まだありました。外貨建ての保険商品です。いま、流行りですね。Cさんが加入していたのは、外貨建ての一時払い定額個人年金保険です。普通の個人年金保険に加入しているのにどうしてわざわざ外貨建ての年金保険にも加入しているのかというと、通貨リスクを分散させるためだそうです。どこで吹き込まれたのか、複数通貨に分散させるとリスクヘッジになるという知識はお持ちのようでした。

 

さて、本当にこれらの保険は貯蓄代わりになっているのでしょうか。

 

まず定期付終身保険ですが、契約内容を見ると、Cさんが55歳で保険料の払い込みが満了となり、同時に定期保険の保障期間も終わります。Cさんが加入していた定期付終身保険は定期保険特約部分で2200万円の保障額が設定されていました。

 

定期保険は掛け捨て型の保険なので、保障期間が終われば1銭も戻ってきません。その後の保障は終身保険のみで、この保障額が300万円です。ということは、もしCさんが56歳で亡くなったとき、妻が得られる保障は300万円しかないのです。

 

次に妻が受取人になっている個人年金保険ですが、これは満期まできちんと保険料を払い込めば、元本を割り込むことはありません。ただ、運用利回りという点で見れば、決して高くはありません。現在もさまざまな個人年金保険がありますが、解約返戻率を年利回り換算した場合の数字は、0.1~0.2%程度です。

 

定期預金の利率が0.01%であることから考えれば低くはありませんが、個人年金保険は20~30年という長期間にわたって保険料を積み立てていく商品です。生命保険料控除という税制メリットはありますが、この程度のリターンなら、iDeCoやつみたてNISAのような非課税口座で投資信託に積立投資したほうが、高いリターンが期待できそうなものです。

 

もっと言えば、Cさんが契約者で受取人が奥さんの場合、満期保険金に対して贈与税がかかります。110万円までの贈与税の非課税枠はありますが、ほとんどリターンがないのに贈与税で持っていかれてしまっては、運用になっていません。

 

そして、通貨リスクを分散させるという狙いで加入した外貨建ての一時払い定額個人年金保険。この手の保険商品は仕組みが複雑で、どこに罠が隠されているか見えにくい部分があります。

 

ある外資系保険会社の外貨建て一時払い定額個人年金保険は、保険料を一時払いした時点で、そこから契約に関連する費用を先払いさせられます。加えて為替手数料、保険商品なので保障に関連した費用、運用に関連した費用が保険期間中、ずっと引かれ続けます。

 

言うなればコストの塊のような商品設計になっているのが、外貨建ての生命保険なのです。さらに保障は「外貨建て」、日本円に戻すときに円高になっていれば、為替で損をしてしまいます。

 

いかがでしょうか。以上の点をCさんにご説明したところ、呆然としていました。自分自身は有利な資産形成と思っていたのですから当然でしょう。

 

正直、外貨建ての生命保険などは典型なのですが、中途解約すると、それ以前に差し引かれていたコストがあまりにも大きいため、簡単に元本割れをしてしまいます。

 

定期付終身保険に至っては、55歳まで払い続けた保険料は総額で500万円以上ですが、Cさんが保険料の払い込みを満了する55歳以降も生存していたら、死亡保障は300万円にしかなりません。完全な元本割れです。保障ですから元本割れという考え方も本来おかしいのですが、保険を老後の金融資産と考えていること自体がそもそもおかしいのです。

 

日本人の中には、なぜか生命保険を貯蓄の一種と考えている人が多いのですが、決してそんなことはありません。資産運用と保障は別ものとして考えるべきなのです。

 

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50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

山中 伸枝

東洋経済新報社

定年前後の5年間、お金との付き合いには罠がいっぱいあります。老後の生活が始まる前に破綻してしまう人もいるくらい、とっても危険な罠です。この本では、その危険な罠にはまらないよう、筆者自身が実際に本人たちから聞いた…

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