定年前後はお金に関する様々な誘惑があり、危険な罠にはまって老後破綻に陥る人も多いです。しかし、50歳を過ぎたらするべきこと、してはいけないことを知っておけば、老後のお金の不安は解消できます。今回は、親の資産を知らないまま親が亡くなると、どのような不都合なことが起こるのかについて見ていきます。※本連載は、山中伸枝氏の著書『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「一体、何に投資していたの?」

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

Eさんは現在55歳。4つ上のお兄さんがいらっしゃいます。先日、父親が他界されました。幸いなことに、これまでお兄さん夫婦がご両親と同居してくれていたので、お父さんが亡くなった後、年老いた母親が一人暮らしにならずに済んでいます。

 

その点は安心できたEさんなのですが、1つ気がかりがありました。それは、父親が非常に謎めいた人で、自分の資産内容を、子供にいっさい明かさなかったのです。そして母親は、そんな父親に頼りっぱなしでした。

 

お葬式は家族葬で簡単に済ませました。父親は一人っ子で、すでに血縁は皆無に近い状況だったので別段、問題にはなりませんでした。葬式費用は父親の容態が悪くなったとき、すでに父親名義の銀行口座から現金を引き出して、自宅で保管していたそうです。

 

さて、四十九日の法要が終わり、Eさんはお兄さんと相続について話し合うことにしました。相続税の申告、納税は相続開始後10ヵ月のうちに済ませなければなりません。ちょうどいいタイミングです。

 

でも、ここでいろいろ揉め事が生じてきました。

 

まず、Eさんの妻が不満を言い始めました。Eさんにもお兄さんにも子供がいるのですが、お兄さんの子供が大学に入学したとき、父親が入学金を援助した話を小耳に挟んでいたのです。Eさんの子供が大学に入学したときは、この手の援助はなかったのですが、Eさんは「兄貴のところは両親を面倒見ているんだから、このくらいは当然だろう」と気にも留めていなかったのですが、妻は決して見逃しませんでした。

 

相続財産は、現預金が2000万円。それにお兄さんがそのまま住んでいる実家があります。Eさんの妻は、法定相続に則ってきっちり遺産分割してもらうよう、Eさんに言いました。

 

もちろん、現預金は簡単に分けられますが、問題は実家です。Eさんの妻は実家も評価額に従ってきちんと法定相続分をもらうよう、Eさんに言っているのですが、実家にはお兄さん一家と年老いた母親が住んでいます。

 

「だったら、実家の評価額の法定相続分を、母親とお兄さんが相続した現預金から払ってもらってください」というのが、Eさんの妻の言い分でした。

 

「そこまでしなくても」と思っているEさんは、言い出したら聞かない妻を何とか説き伏せ、実家の相続分については母親が亡くなるタイミングまで待つことで、渋々ですが納得してもらえました。

 

やれやれと胸をなでおろしたEさん。でも、相続のゴタゴタはこれで終わりませんでした。お兄さんのところに、銀行から住宅ローンの督促が届いたのです。父親が借りていた住宅ローンは団体信用生命保険(団信)加入が任意だったため、少しでもコストを抑えるため、団信に加入していませんでした。

 

「でも、誰の家?」と兄弟2人して疑問に思っていたところ、謎が解けました。

 

秘密主義の父親には愛人がいたのです。しかも認知した子供までいました。「聞いてないよ~」と、2人。認知したということは、その子供に対する相続が発生します。

 

住宅ローンの残債がまだ3000万円もあるとのこと。まさか、いままで存在を知らなかった愛人とその子供が住み続けられるように、自分たちが住宅ローンを払わなければならないのか? だとしたら、そんな理不尽なことはありません。

 

相続放棄でスッキリしてしまうという方法もありますが、Eさんからすれば、ただでさえ実家の相続分で妻に妥協してもらったのに、相続放棄なんてことになれば、きっと妻は切れ、「離婚」の二文字も現実化してきます。

 

「そういえば……」と母親。「あの人、亡くなる前に投資で大儲けしたって言っていたわ」

 

Eさんとお兄さんは色めき立ちました。株式投資かFXで大儲けしたのであれば、口座がどこかにあるはず。実家を隈なく探せば、口座の暗証番号やパスワードが郵送されているはずだから、その書類を見つければ相続財産がさらに増えます。これなら住宅ローンの残債も何とか完済し、相続放棄をせずに済むかも知れません。

 

必死になって書類を探しました。でも、どこからもそんなものは出てきませんでした。Eさんは母親に聞きました。「一体、何に投資していたの?」

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

母親の答えにEさんは愕然としました。「仮想通貨」だったそうです。本人が亡くなったことで、「秘密鍵」はわからず、このままだと仮想通貨を法定通貨に替えることができません。しかもよくよく調べたところ、たとえ秘密鍵がわからず、仮想通貨を法定通貨に替えられなくても、国税庁は相続人に相続税を課すとのこと。

 

Eさんとお兄さんは、父親が健康だったときにもっとお金の話をしておくべきだったと後悔すると共に、税務署からいつ連絡が来るのか不安な気持ちで待つ日々を送っています。

 

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50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話

山中 伸枝

東洋経済新報社

定年前後の5年間、お金との付き合いには罠がいっぱいあります。老後の生活が始まる前に破綻してしまう人もいるくらい、とっても危険な罠です。この本では、その危険な罠にはまらないよう、筆者自身が実際に本人たちから聞いた…

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