退職金1600万円が振り込まれると、銀行から電話が…
Dさんは百貨店勤務。60歳で定年を迎え、そのまま65歳までの再雇用に応じました。雇用延長ではなく再雇用のため、60歳で規定の額の退職一時金を受け取りました。金額は1600万円なので、いいほうだと思います。
ご自身でもほぼ満足のいく退職金でしたし、再雇用で元の職場で引き続き同じ仕事で働くため、特に気を遣うこともなければストレスもなく、現役時代に比べて格段に下がるとはいえ収入も得られます。これまでのように責任も求められないし、自分が身に付けてきたノウハウを部下に伝授するという使命感に燃えて、Dさんは毎日が楽しそうでした。
ある日、Dさんが自宅でくつろいでいると、給料の振込口座に指定している銀行の人から電話がかかってきました。「Dさんですか。いつもお世話になっております。このたびは定年おめでとうございます。実は当行の支店長が一度、Dさんにご挨拶をしたいと申しておりまして。もし支店の近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください」
再雇用によってセカンドキャリアをスタートさせたDさん。銀行の支店は職場の近くにあるので、お昼休みにちょっと行ってみることにしました。
「こんにちは。Dと申します。先日、お電話を頂戴し、支店長が何か私に用事があるとか...」
「あ、D様ですね。お待ちしておりました。少々お待ちください」
銀行のフロア担当者が支店長にDさんが店頭に来ていることを伝えに行きました。しばらくして、Dさんは支店の応接室に通されました。
会議室ではなく応接室です。立派な革張りの応接セットが中央に配置され、壁には立派な絵がかけられています。店頭の騒がしい音は全く入ってこず、シーンと静まった空間。もちろん、Dさんが銀行の応接室に入った経験は一度もありません。若干、緊張の面持ちで支店長が入ってくるのを待ちます。5分ほどが過ぎてから、支店長が入ってきました。
「D様。いつも当行をご利用いただきありがとうございます。また、無事に定年を迎えられたとのこと。おめでとうございます。いえ、実はD様が〇〇百貨店にお勤めでいらっしゃると聞きまして。実は、私も個人的によく使わせてもらっているお店なものですから、一度、ご挨拶だけでもと思いまして」
それからしばらく世間話に花が咲きました。しかも、この支店長、Dさんの大学の後輩でもありました。すっかりDさんは先輩風を吹かせています。
「支店長、同じ大学のよしみだ。これも何かの縁だし、何か必要なことがあったらいつでも相談に乗るから」とDさん。
「ありがとうございます。何かあったときは是非とも、お力添えください。センパイ」と支店長。
もちろん、支店長がDさんと同じ大学というのは全くのウソです。
それから数日が経ち、支店長はDさんの自宅を訪ねました。再雇用とはいえ、週に4日だけ職場に行くことを、すでに支店長はリサーチ済みです。
「たまたま近くの取引先に来たものですから。センパイの社会人時代の武勇伝などを伺いたく、ずうずうしくも立ち寄らせてもらった次第です」菓子折りを持っての訪問です。
「ついでと言っては何ですが、当行に入ったばかりの新人です。とても仕事熱心なのですが、まだお客様が少なくて。センパイがこれまでどのように立派なお仕事をしてこられたのか、彼にも教えてやってください」
この言葉がDさんの自尊心に火を点けました。「君、何かあったらいつでも相談に来なさい。支店長は私の後輩だ。後輩からの頼みとあっては断れない。遠慮せず、何でも言ってくれ」
このやりとりは、いまから3年前のお話です。Dさんは憔悴しきった顔で私のオフィスに相談に見えました。
「いや、あの新人君から私の退職金が普通預金のままになっているので、運用してはどうかと提案がありまして。支店長からお勧めの商品ということで新興国の株式市場に分散投資する投資信託を購入しました。
これから新興国はどんどん成長するから、センパイの退職金も大きく増えますなどと言われたのですが、株価が急落して半分くらいになってしまいました。しかも繰上償還が決定したとかで、損したまま償還金が戻ってきてしまったのです」
Dさんは支店長に相談しようと支店を訪ねたそうです。そうしたら、定期異動で他県の支店に転勤したとのこと。もう、お気の毒としか言いようがありませんでした。
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