米国企業は日本企業と異なり、大胆に事業再編をする
日本でもパソコンでお馴染みのヒューレットパッカードは2015年に、パソコン・プリント事業を継承するHP Inc.と、法人向けにITインフラ、ソフトウェア、サービス事業を行なうHewlett Packard Enterpriseにスピンオフしました。
パソコン市場が縮小するなか、ヒューレットパッカードはコスト構造の見直しや新たな成長投資を行なうターンアラウンド計画のなかでスピンオフを行ないました。
ヒューレットパッカードのメグ・ウィットマン会長兼社長兼CEO(当時)は、「スピンオフはターンアラウンド計画達成へのコミットメントであり、分割されるそれぞれの企業は、市場や顧客の変化に素早く対応できる独立性、フォーカス、経営資源、柔軟性が与えられる」と述べました。
ダウ・ケミカルとデュポンは2015年に対等合併でダウ・デュポンになった後に、3分割して、機能素材や工業化学品などを取り扱うダウ・インク、エレクトロニクスやバイオサイエンスなどを行なうデュポン・ドゥ・ヌムール、作物保護・種子などを主要事業にするコルテバになりました。
当時、化学業界で最大のM&Aで、化学業界のゲーム・チェンジャーになるとされました。「3分割される企業はそれぞれ、明確な集中、適切な資本構造、卓越して説得力ある投資テーマ、規模の優位性、優れたソリューションと顧客の選択ができるイノベーションへの投資ができる」と述べられました。
アクティビストのサードポイントが、業績が悪化していたダウ・ケミカルに対して事業分割の圧力をかけていたとされました。
ダウ・デュポンはピュアプレイ(特定の製品やサービスに特化すること)の化学会社3社に分割されましたが、日本では三菱ケミカルホールディングス、住友化学、三井化学がコングロマリットのまま存在しています。日本では企業をモノのように売り買いしたり、分けたりする習慣がありませんが、米国企業の組織再編のダイナミズムは日本企業とは桁違いといえます。
「GM」がEV部門をスピンオフするかどうかに注目
自動車株ではテスラにばかり注目が集まっていますが、他の自動車メーカーもEVに注力しています。
2020年8月19日のウォール・ストリート・ジャーナル紙は「GM、EV部門のスピンアウトは可能か?」との記事で、「GMが同社のEV事業をスピンオフさせ、テスラの競争相手となり、テスラ同様のバリュエーションを得ることのできる別の事業体にする可能性があるという観測が広まりつつある」と指摘しました。
GMのメアリー・バーラCEOは、7月の第2四半期決算説明会で「あらゆる可能性を検討する」との考えを示しました。
GMにとってスピンオフが魅力的なのは、とくに2020年は操業停止でオペレーションのコストがかかっていることもあり、低コストで資金調達が可能なことです。GMの株価は、破産後再上場した際のIPO価格の33ドルを下回っており、あからさまに困窮していない限り、実質的には資金調達のために株式を売ることはできません。
テスラはそのような問題を抱えておらず、2月に新株発行で20億ドルを調達しました。GMにとってみれば、企業価値の高いEV子会社は、極めてコストのかかる新技術獲得競争でハンディキャップを解消するのに役立つ可能性があります。
GMの株主にとっては、ハイテク部門の勢いの一部が親会社にも良い影響を及ぼすかもしれないという期待もあります。とくに子会社が上場されれば、その企業価値は一目瞭然になることがメリットです。
菊地正俊
みずほ証券エクイティ調査部 チーフ株式ストラテジスト
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