(※写真はイメージです/PIXTA)

財産を希望に沿った形で相続するには、「信託」を活用する方法が有効です。本記事では、障害者や未成年者を守るための「福祉型信託」について見ていきます。※本連載は、宮田浩志氏の著書『相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本』(近代セールス社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「別れた夫」に子の財産管理を牛耳られるのを防ぎたい

Q. 清水母子(38歳)は、別れた夫俊雄(40歳)との間の子翔(8歳)の親権者となり、母子家庭として2人で暮らしています。もともと体が弱い母子は、もし翔が成人する前に、自分が亡くなるようなことがあれば、離婚した元夫俊雄に翔が引き取られ、子にわたった自分の遺産も元夫に管理・消費されてしまうことを心配しています。

翔が成人する12年後までに、自分が亡くなるようなことがあれば、翔の世話・養育と遺した財産は、母子の妹不二子に託したいと望んでいます。

 

<解決策>

清水母子は、遺言公正証書を作成して、次の2つのことを定めておきます。

 

1つ目は、もし翔が成人する前に母子が亡くなった場合、翔に対する未成年後見人として妹不二子を指定します。

 

2つ目は、遺言信託を設定します。その内容は母子の遺産すべてを信託財産とし、翔を受益者、妹不二子を受託者として財産管理を託します。受託者不二子は、翔が成人するまで、翔に関する学費・生活費・教育費等を信託財産から賄い、また毎月一定額を小遣いとして翔に給付するように定めておきます。

 

【信託設計】
委託者:清水母子
受託者:峰田不二子
受益者:清水翔
信託財産:自宅および現金
信託期間:受託者不二子と受益者翔が合意するまで
残余財産の帰属先:信託終了時の受益者(翔)

 

<要点解説>

翔が成人になる前に親権者が亡くなったからといって、別れた夫俊雄が自動的に親権を取得するわけではありません。親権者が不在になると、家庭裁判所に「未成年後見人」を選任してもらう手続きが必要となりますが、この未成年後見人は、遺言によりあらかじめ指定しておくことができます。

 

母子は、遺言で妹不二子を未成年後見人に指定しておきます。こうすると、母子の亡き後に元夫の俊雄が出てきて、未成年者の翔に代わって母子の遺産を俊雄が管理する事態を防ぐことができます。

 

ただし、未成年後見人として妹不二子が養育するよりも、父親である俊雄が養育した方が、翔の福祉にとって望ましいという家庭裁判所の判断により、別れた俊雄の親権復活が認められることもあり得ます。したがって、このような事態に備えて遺言信託を用意しておきます。

 

遺言の中で信託を設定し、母子の遺産の管理を不二子が担うことで、俊雄が翔の親権者として母子の遺産を消費してしまうことを制限することができます。

 

つまり、信託の定めにおいて、子の学費・教育費としての支払いが生じた場合は、元夫の俊雄に財産を給付するのではなく、直接受託者から支払先に振り込むことができるうえ、翔に対する毎月の定額給付の定めを設けておけば、たとえ俊雄が親権者になっても、俊雄からの不当な一括給付の請求を拒否することも可能になります。

 

信託期間は母子が亡くなると開始し、終了時は翔が成人するまででも大学卒業まででも構いませんし、あえて存続期間を指定しないで、不二子と翔が合意したタイミングで信託を終了させることも可能です。信託の終了に伴い、残余財産をそのまま翔に引き渡すという内容にしておきます。

 

なお、母子が何事もなく翔を成人まで育てた場合、未成年後見人の指定の遺言条項は、翔が成人した時点で無効な条項となります。一方、遺言信託の部分は、特に条件を付けなければ、翔が成人した後でも母子が亡くなることにより発動するので、その必要がなければ、当該遺言を取り消すか書き替えるべきです。

 

あるいは、遺言信託を条件付き(たとえば翔が成人に達する前に母子が亡くなることを条件)にしておけば、未成年後見人の指定条項と同様、あえて遺言を書き替えなくても、無効な遺言として放っておいても問題ありません。

 

なお、この遺言信託を組んだ場合の税務はシンプルで、母子が亡くなったときに単独相続人である翔に相続税がかかるかどうかだけです。それ以外に遺言書作成時はもちろん、信託継続期間中も翔に贈与税や所得税等の課税の問題は一切発生しません。

 

宮田浩志

宮田総合法務事務所代表

 

※本記事の事例に登場する名前はすべて仮名で、個人が特定されないよう内容に一部変更を加えております。

 

 

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宮田 浩志

近代セールス社

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