特定の相続人を除いて遺産を相続する方法
そこで、1人暮らしの父郎を心配して頻繁に連絡をくれる一郎と、何かと気を回してくれる三郎にだけ将来の遺産を遺したいと考えています。
<保有資産とその承継先の希望>
・自宅:一郎へ
・賃貸アパート:三郎へ
・熱海の別荘:特に希望なし
・北海道の山林:特に希望なし
・現預金:一郎と三郎へ
<解決策>
渡辺父郎は、一郎を受託者とする信託契約を2本締結します。1つ目の信託契約(信託契約A)は、自宅と金融資産の一部を信託財産として託し、当初受益者を父郎、父郎亡き後の第二受益者を一郎および孫太郎とします。
2つ目の信託契約(信託契約B)は、賃貸アパートと金融資産の一部を信託財産として託し、当初受益者を父郎、父郎死亡後の第二受益者を三郎とします。
さらに、信託契約公正証書作成時に遺言公正証書も合わせて作成します。その中で、①北海道の山林、②熱海の別荘、③信託財産以外の現預金を二郎に相続させる旨を定めます。そして、もし上記①~③では二郎の遺留分を満たさない場合は、遺留分に満つるまで信託契約Bに基づく信託受益権の一部を二郎に相続させるように指定します。
信託契約A:自宅分
委託者:渡辺父郎
受託者:渡辺一郎(予備的に一郎の子・渡辺孫太郎)
受益者:①渡辺父郎②渡辺一郎および渡辺孫太郎
信託財産:自宅および現金
信託期間:父郎および一郎の死亡
残余財産の帰属先:孫太郎
信託契約B:賃貸アパート分
委託者:渡辺父郎
受託者:渡辺一郎(予備的に一郎の子・渡辺孫太郎)
受益者:①渡辺父郎②渡辺三郎(遺産の状況に応じて、受益権の一部を二郎が持つことも想定)③三郎の子 渡辺尚子
信託財産:賃貸アパートおよび現金
信託期間:㋐父郎および二郎の死亡㋑受益者および受託者の合意
残余財産の帰属先:信託終了時の受益者。信託終了時の受益者が死亡している場合、当該死亡者の保有分は尚子
<要点解説>
生前の財産管理・認知症対策として、近所に住む長男 一郎に自宅と賃貸アパートを信託しておくことで、父郎が入院・施設入所して自宅が空き家になっても、賃貸や売却を含めたあらゆる選択肢を確保できますし、賃貸アパートの経営も万全に引き継げるので、本人および家族にとって安心です。また、老後の生活・介護資金も合わせて一郎に託しますので、預貯金を父郎自身が下ろしに行けなくなって困る事態も防げます。
信託契約の中で遺言の機能を持たせ、自宅は一郎とその子の孫太郎に遺し(一郎だけを受益者とすると「受託者=100%受益者」となり、父郎の死亡時点から1年で信託が終了してしまうので)、さらに一郎の老後の財産管理まで見据えた長期的な自宅の管理を実現できます。
賃貸アパートは、最終的に三郎家系に承継させるつもりですが、二郎の遺留分を満たすだけの遺産を用意できないことも想定し(もちろん遺留分相当の金銭があれば、信託受益権の取得に代えて代償金の一括支払いで済ませたいが、分割払いの話し合いも難航する可能性も高いので)、その場合は、賃貸アパートを信託財産とする信託受益権の一部を二郎に渡して遺留分に充当することを遺言の中で指定しておきます※。
二郎は受益権の一部を持つことにより、毎月の賃料収入の一部を受け取ることになりますが、賃貸経営の方針に直接口を出すことはできませんし、受託者は二郎の了解を取る必要もありません。将来的に二郎が死亡した場合は、信託契約を終了させて、二郎が持っていた受益権持分を三郎の子尚子が引き継ぐ設計にしておくことで、無事賃貸アパートを三郎家系で承継することが可能となります。
なお、自宅の信託契約(信託契約A)と同様、三郎の老後の財産管理まで見越して、信託期間を無期限にして、終了したいときまで信託が存続できるような設計も良策でしょう。
※遺留分対策として遺留分権利者に信託受益権の一部を渡すことは可能ですが、平成30年9月12日の東京地裁判決(公序良俗違反で家族信託の一部が無効)を踏まえ、次の点に注意すべきと考えます。
①受託者による財産管理の実態があること
②遺留分制度を潜脱することが主たる目的・動機ではないこと
③受益権の内容に経済合理性・客観的妥当性があること
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