日本の公的年金の平均運用利回りは3.59%とされており、世界の半分以下です。基本的な運用方法が同じにもかかわらず、なぜ差が生じるのでしょうか? 今回は、私たちが将来もらえる年金額に影響を与えかねないこの理由を、上地教授と中村さんの会話から探っていきます。※本連載は、上地明徳氏の著書『老後の資金 10年で2倍にできるって本当ですか?』(青春出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

日本の公的年金の資産配分は「株式の比率」が低い

──どうして日本の公的年金の運用は世界標準の半分以下の成績なんでしょうか?

 

[図表1]に示されているように、日本株が25%保有されていますが、世界経済において日本経済が占める割合から見れば、せいぜい「10%」でいいでしょう。日本債券は35%ですが、これは多すぎる。ゼロでもいいくらいです。

 

ほかにも、いろいろとツッコミどころの多いポートフォリオなんですよねぇ。日本株と日本債券を合わせると60%、自国に6割のウェイトを置くのは、リスク分散という意味でどうかな?という気がします。

 

──なんで世界標準に近い運用を目指さないのですか? 成功している国の年金運用をマネすればいいと思うんですけど。

 

彼らの目的が「長期リターンの最大化」とは別のところにあるのではないでしょうか。

 

──リターンの最大化ではない目的って、どんな目的なんですか?

 

まあ、大人の事情ってやつでしょうか。組織のトップには、運用の世界で活躍された優秀な方々が経営委員として名を連ねています。私の勝手な推測ではありますが、その人たちの中で今の資産配分がベストだと思っておられる方は少ないのではないかと。

 

「日本株の25%」は、2012年まで「12%」だった比率を引き上げたのですが、当時は円高デフレ不況で日本株は底値を這(は)う最悪の状況でした。1ドル80円、日経平均株価8000円割れの中で、日本の株式市場を買い支えたいといった政治的な思惑が働いた結果の「25%」です。

 

それに「日本債券の35%」は、2012年の変更以前からすれば大幅に引き下げられたとはいえ、これでも高すぎるというのが私の意見。個人的にはゼロでもいいくらいに思っていますが、議論が外れてしまうのでこのくらいで止めておきましょう。

 

──なるほど。そういう事情があるんですね。

 

はい。それに、日本人の多くは、メディアを中心にいまだに株式投資を危険な運用方法だと思っています。「大切な年金の原資をリスクのある株式で運用するのはけしからん」と、今なお一部で批判を受けているくらいなので、なかなかポートフォリオを変えることができないんです。

 

──株式は元本を割る可能性が高い=危険……ということですね。私も上地さんから話を聞くまでは、そう思っていたな〜。ところで、日本以外の国の年金運用はどうなっているんですか?

 

では、もう一度、[図表1]をご覧ください。

 

(再掲)[図表1]世界の公的年金のポートフォリオ

 

カリフォルニア州の地方公務員の年金基金、カナダの公的年金、ノルウェーの公的年金ポートフォリオと運用成果です。いずれも株式の比率は何%になっていますか?

 

──株式比率が一番低いのがカリフォルニア州政府職員の年金で58%、高いのはカナダの公的年金で85%ですね。

 

運用成績についてはどうでしょうか?

 

──3つの中で一番低いのがカリフォルニアで「6.6%」、高いのがカナダで「8.5%」です。

 

このデータから、何か気づいたことはありませんか?

 

──えーと、長期の運用成績が最もいいカナダは、株式の比率がほかの国に比べて大きい……ってことですかね。

 

中村さんの着眼点は素晴らしいですね。その通りです。

 

──やった、正解ですね!

 

株式の比率を高くすると、長期的なリターンは高くなるんです。しかし、一部のメディアは、短期的なリターンの変動性が高まる、つまり短期的には損するリスクが大きくなることばかりを、ネガティブに報道します。長期的なリターンで得られるメリットを報じないんですよ。

 

──私も上地さんの説明を聞いていなければ、短期的にでもマイナスになったら大騒ぎしていたかもしれません。

 

補足させていただくと、年金以外の分野でも長期目的で運用する人たちがいます。〇〇財団、××基金といった団体です。日本の財団や大学基金では、投資は積極的に行われていませんが、欧米の財団・基金の多くでは長期国際分散投資が実践されています。

 

──へ~、そうなんですね。

 

『老後の資金 10年で2倍にできるって本当ですか?』
『老後の資金 10年で2倍にできるって本当ですか?』

 

上地 明徳

信州大学経営大学院 特任教授

 

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