なぜ「田の字型の間取り」では通風に問題があるのか?
前回説明したように、デベロッパーにとっては経済的に作れる「田の字型の間取り」ですが、部屋の配置が限定される以上に大きな問題となるのが住戸内の通風です。これは住み心地という観点から言えば、致命的とも言える重大な問題となってくるのです。
通風と聞くと、「あれ、でも?」と疑念を抱く人もいらっしゃるのではないでしょうか。
最近のマンション広告では通風マーク「~」を間取り図上の窓に記載したものが目につきます。ごく一般的な田の字型の間取りでもこのマークが記載されている物件もあるし、田の字型だからといって、通風が悪いと決めつけることはできないのでは? そう思われるのかもしれません。
しかし、窓のところに通風マークがあれば、それはイコール「風通しのよい部屋」なのでしょうか。
風とは空気の移動です。つまり、どこからか入って、どこかへ出なければ移動できず風とはなりません。つまり、風通しとは風の入り口と出口があり、その間を空気が流れてくれないと成立しないということなのです。
普通に考えると当たり前の話ですが、その観点で広告を見ると、通風マークは、「入る」という意味でしか描かれていません。
実際に通風がどうなっているかを解説するためには、間取り図面上で入った風がどこに抜けていくのか、その「通り道」を表示する必要がありますが、ほとんどの広告で目にすることはありません。なぜなら、風の通りに明らかな無理や矛盾があるからです。
それを田の字型の間取り例で説明したのが下記の図表です。
[図表]田の字型の間取りは通風にも問題山積み
入り口と出口がなければ風は通り抜けない
リビングから風が入ったら、その反対側、つまり玄関か、玄関側の2室の窓から抜けると考えるのが普通です。
ここから少し細かい話になりますが、重要ですので注意して読み進めてください。まず、玄関を風の出口とするためには玄関ドアを開けて固定しなければなりません。
しかし、防犯上はもちろん、共用廊下を歩く人に対し、ドアが邪魔になったり、歩行者が意図的ではなくとも部屋を覗いたりするため、現実的には玄関ドアを開放しておくことはできません。
では、共用廊下に面する子ども部屋の窓を風の出口とする場合、子ども部屋の窓と子ども部屋のドア、両方を開く必要があります。
ただ、現実問題として、子ども部屋に人がいる場合は、部屋に面した共用廊下を通る人の視線を気にし、窓を閉めるでしょうし、音楽でも聴いていればリビングに漏れることを気にし、子ども部屋のドアは閉じられてしまうと考えなければなりません。すると風の出口は封鎖され、入り口があっても風が入ることはなくなります。
言い忘れましたが、もっと大事なのは、風の通り道になるリビングと廊下の間にある框(かまち)扉は風を通す時、常時開けていなければなりません。
つまり框扉は、バルコニーや共用廊下から通り抜けるすべての風を通さねばならないボトルネックとなっているのです。
だからと言って、ここも生活する上で、いつも開けてはいられません。たとえばリビングに来客がいて、子どもが自室でゲームをやっているとしたら、お母さんはうるさいので、無意識にリビングの框扉を閉めてしまうはずです。
すると、そのとたんに、この家に爽やかに流れていた風は完全に停止します。筆者はこれを「住宅の息の根が止まった」と表現しています。
住宅の息の根を止めない工夫こそが、デベロッパーの商品企画力なのですが、通風マークが描かれていたとしても、田の字型の間取りで、しかもリビングと廊下との間に框扉があるとしたら、日が当たるという条件と同等に重要だと言われる通風は期待できない。つまり、快適な住み心地は得られないと覚悟してください。
もちろん、框扉も、個室のドアも窓も全開にすれば風は通りますが、それでは親子間のプライバシーは成立しませんし、外から丸見えの生活を覚悟すればよいのですが、この状態では快適な住み心地などとはとうてい言えません。住戸内に風を通そうと考える時、窓以外にいくつもの障害をクリアする必要があります。
そう考えると、やはり、効率優先で作られる田の字型の間取りは、生活を営む上で、問題のある間取りと判断するのが妥当なのです。