「お宅の商品は使いにくい」といわれ、改良を目指す商品開発担当者。「サラリーマンになるより会社を興そう!」との声に発奮され、起業家を目指す人。もしかしたら、あなたにその決断をさせた情報とは違う、さらに重要な情報があるかもしれませんよ。安易な判断で取り返しのつかない損失を被る前に、少し立ち止まってみましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

客の不平不満を集めすぎると、経営判断を誤る原因に

人は満足しているときにはなにもいいませんが、不満があると口を開くものです。そのため、聞こえてくる声だけを拾い集めると、判断を誤ることがあります。

 

昔、経済にくわしくない大臣が金利生活者である高齢者たちから陳情を受け「金利が低すぎて金利生活者が困っているから、金利を上げよう」と発言したことがあります。金利を決めるのは大臣ではなく日銀総裁なのですが、それはともかく、その発言の翌日、選挙区の中小企業が大臣の事務所に押しかけてきました。

 

「われわれは、金利が低いからやっていけるのであって、金利が上がったら生きていけない。発言を取り消してほしい」というのです。大臣は聞こえてくる不満に耳を傾けるに際し、「黙っている人はなにを考えているのか?」と自問自答する必要があったのですが、それを怠ってしまったというわけです。

 

それだけではありません。多くの場合、法案が国会に提出されると、法律によって得をしそうな人は小さな声で賛成しますが、損をしそうな人は大きな声で反対しますから、世論は法案に反対だ、という誤解をする議員がでてくるかもしれないのです。

 

相手の声が聞こえてこない理由のうち、さらに深刻なものとして「すでに関心を失っている」というケースも考えられます。「夫婦喧嘩をするうちはまだいいが、相手への関心がなくなれば喧嘩すらしなくなってしまう」というのと似ていますね(笑)。

 

顧客のクレームをよく聞き、商品の改良につなげようと考える企業は多いのですが、同様に、慎重な取り組みが求められます。「購入した直後に壊れた」というクレームを聞き、壊れにくい頑丈な製品へとリニューアルしても、売れるとは限りません。重たくて見栄えの悪い製品になってしまうかもしれないからです。

 

問題は、「おたくの製品は重くてデザインが悪いから、買わなかったぞ」というクレームを入れるお客がいないことです。重さやデザインに不満をもつ人は、黙って他社の製品を買うだけですから。

 

本来であれば、他社の製品を購入した人に「どうしてわが社の製品ではなく、他社の製品を選んだのですか?」と聞きたいところですが、なかなかむずかしいでしょうね。ただし、そうした必要性を認識しているだけでも、大きな勘違いを防ぐ一助にはなるかもしれませんよ。

日中に固定電話を取る人は、きっと専業主婦か高齢者

電話による支持政党を問うアンケート調査なども頻繁に行われています。アンケートは「どのように調査が行われているのか」という手法の部分が重要です。

 

右寄りの新聞が読者アンケートをとったら、右の政党の支持率が高くでるでしょうし、左寄りの新聞が読者アンケートをとったら、左の政党の支持率が高くでるでしょう。もっとも、それはさすがにアンケート結果を見る人が割り引いて考えるでしょうから、実害は少ないかもしれません。

 

意外なことに、中立であろうとして、読者アンケートではなく「固定電話の番号に無差別に電話をする」といった手法を採用すると、かえってそれが問題になりかねないのです。

 

平日の昼間に固定電話に応答するのは専業主婦か高齢者であって、現役世代は応答しないでしょう。そうなると、高齢者や消費者に優しい政党の支持率が高くなり、企業の発展を重視する政党や、若者や働く人に優しい政党の支持率が低くなってしまうかもしれません。

 

反対に、インターネットによるアンケートは、高齢者に優しい政党より若者に優しい政党のほうが支持率が高くなってしまいそうです。

 

週末、固定電話にも携帯電話の番号にも無作為に電話するのであれば、比較的正確な支持率が得られるかもしれませんね。携帯電話も固定電話も持てない貧しい層がいる途上国ならともかく、日本の場合はアンケート結果に影響を及ぼすほど多数ではないでしょうから。

儲かっている人・満足している人は「言葉が少なめ」

儲かっている会社は、下請けからの値上げ要請が起きないよう口を閉ざし、儲かっていない会社は「下請けは値引きして」と大きな声をだすかもしれません。

 

個人も同じようなものです。儲かっている人は妬みを買うのを恐れ、口を閉ざしているかもしれません。そのあたりは拙稿『政府の年金運用「儲かっているか、損しているか」答えなさいをあわせてご参照いただければ幸いです。

 

今回は以上です。なお、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かいところについて厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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