なぜ、保険に入るのでしょうか。多くの人は「万が一のために」と答えます。しかし実際に何かが起きる可能性は高くなく、特に火災保険においては、火事に見舞われることなくローンを完済する人がほとんどでしょう。高い保険料はただの「お守り」でしかありません。でも本当は、火災以外でもこれだけの保険金を受け取れる可能性があることをご存じでしょうか。※本連載は屋敷康蔵氏の著書『人生を賭けて「家」を買った人の末路』(PHP研究所)より一部を抜粋・再編集したものです。

雪や台風による住宅被害も「火災保険」の補償対象

皆さんが住宅を新築して購入した時には、必ず「火災保険」に加入します。せっかく新しいマイホームを手に入れたのに、万が一にも火事などに遭(あ)ってしまったら大変なことですからね。この時加入する火災保険は、20年一括や30年一括といった、長期一括払いするのが普通です。

 

この火災保険料は、ローンに組み込み並行してバタバタと加入している人も多いので、「どこの保険会社」で「どんな補償内容か」など細かく認識していない人も少なくありません。

 

火災保険は長期一括で割安に加入しているとはいえ、50万円前後というそれなりの金額を支払っています。しかし、ほとんどの人はローン完済まで「火災」など発生することなく「何事もなくてよかったね」と、支払った分の火災保険を一切使わずに終わるわけですね。

 

もちろん、火事など起こらず、平穏に生活できたのだからそれでよしとする考えもあるでしょう。ただ「保険はお守り」などという言葉は、保険会社のためにあるものです。保険会社からすれば「保険料だけ支払い、請求しないでくれてありがとう」というようなものです。

 

しかし、実は火災保険の証券や約款(やっかん)をじっくり読んでみると、火事だけでなく「雪災や風災」なども含めて補償されている内容のものがほとんどです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

雨樋の打ち替え工事なら、通常50万〜100万円の補償金

一般的には、どうしても「火災」の印象が強く、それ以外にも適用されるという事実を知らない人も多いのですが、地域によっては雪や台風で住宅に被害を受けることもあるでしょう。その場合は「雪災・風災」の補償が下りるかもしれません。具体的には、「雨樋の歪(ゆが)みや脱落、破損・屋根の瓦のズレや棟板金(むねばんきん)の破損」などが挙げられるでしょう。

 

記憶に新しいところでは、2019年の大型台風15号・19号による被害があります。台風の強風で屋根の棟板金が飛んでしまったり、雨樋が外れてしまったりした家がたくさんありました。

 

では、その補修や取り替えはどうしたかというと…、驚くべきことに、火災保険に入っているにもかかわらず、ほとんどの人が「実費」で補修工事をしているのです。なぜでしょう? それは多くの人が、自身が加入している火災保険の補償内容を把握していないことに理由があります。

 

たしかに、あんなに小さな字で細かく書かれている保険の「約款」や補償内容なんて読む気がしないかもしれません。住宅ローンを組む時のどさくさに紛れて、加入した火災保険の内容など覚えていないかもしれません。

 

保険会社も、保険料は自動引き落としするのに、災害の度にいちいち個別に「これは保険が適用されますよ」などと電話をかけてきて教えてはくれません。

 

いわば補助金などと同様に、こちらから申請をしなければ、保険会社は保険金を支払ってはくれないのです。

 

「そうはいっても、仮に申請したって大した金額は出ないでしょう?」なんて思っている人も多いかもしれませんが、実はこの火災保険、雪災・風災の申請では、きちんとした根拠を示せば、驚くほどの金額が保険会社から支払われます。

 

もちろん保険会社やその損傷程度にもよりますが、たとえば雨樋の打ち替え工事(新しいものに全部打ち替える工事)の場合は、通常50万〜100万円という金額が支払われます。

 

ちなみに、雨樋の打ち替え工事ごときに「そんなにお金がかかるの?」と驚かれる方もいるかもしれませんが、工事費用の内訳を見ると、実に1/3〜半分は「足場代」で占められています。

 

少し建築に詳しい方ならピンとくるかと思いますが、材料や職人の手間代以上に「足場」の設置というのはお金がかかるものなのです。足場がなくては作業ができない工事の場合は、保険会社はこの足場代も支払ってくれるのです。たかが雨樋の打ち替え工事に100万円などを出してくれるのは、この足場代にお金がかかることを保険会社もよく分かっているからです。

雨樋工事の「ついで」に…火災保険のお得な裏技

実はこの「足場代」が含まれる雨樋工事に関しては、とてもお得な裏技もあるんです。雨樋等が長年の劣化の積み重ねで弱っており、そこに台風などが来て壊れてしまった。つまり、それくらい一定期間修繕していなかった証(あかし)でもあります。ということは、雨樋以外にも「塗装」などしなくてはならない時期にちょうど来ているということです。

 

修繕しなくてはならない箇所は同じような時期にやってくるものですから。そして、塗装工事にも当然足場は必要です。そしてこの塗装も、見積書を見てもらえば分かるように、その費用の半分近くが「足場代」となっています。

 

もうピンときた方もいるのではないかと思いますが…そうです! 火災保険の自然災害で雨樋工事に使う足場代を申請し、その足場を利用して塗装工事も同時にやってしまえば、こんなにお得な話はありません。つまり、塗装工事の半分近くを占める「足場代」を、火災保険で浮かすことができてしまうわけですね。

 

ちなみに、この逆はダメですよ、塗装は火災保険の対象ではありませんから。あくまで、「雨樋工事の保険申請」で足場代を捻出すること。たしかに雨樋工事の足場と塗装工事の足場のかけ方は少し違うので、多少変える部分が出てくることもありますが、さほどの問題ではありません。

「ここぞとばかりに災害申請」が認められる理由

と、こんな話をすると、生真面目な方からは「そんな、自然災害を利用するなんてどうなの…」という声も聞こえてきそうなので、念のため申し上げておきましょう。まず、自然災害の火災保険申請というのは、申請時にきちんと「何年何月何日の雪(台風)が原因で、どんな被害状況か」を申告します。

 

では、通常時、あなたがご自分の家の雨樋や屋根が損傷しているのに気づいた時、その損傷が「何年何月何日の何に起因した損傷なのか」なんて分かりますか? ほとんどの場合、後から気づくものですし、近所の人から教えてもらって気づいたなんていうことも多いでしょう。

 

つまり、保険会社が聞いてくる「災害日時」自体が現実的ではないのです。逆にその災害日時を保険会社がなぜ確認するかというと、ズバリ「過去の気象庁のデータ」と照らし合わせるからです。「何年何月何日にA市(町村)ではXXセンチの降雪」と、気象庁の記録と申請者の被害日時が合っているかを確認して、災害を認定するのです。

 

ならば保険申請者である我々もこれを逆手に取り、この気象庁のデータを見て、直近の災害日時を確認して申請すればいいだけの話です。ちなみに、気象庁のデータなどはネットに載っています。誰でも簡単に全国の過去の記録を確認できます。

 

具体的な被害状況は写真を基に保険会社が確認しますが、雨樋の損傷として一般的に認められる「歪み・勾配不良」なども、正直なところ、雪や台風などの自然災害によるものなのか、それとも日頃の日光の熱や経年による劣化なのか、正しい判定はできません。

鑑定士次第で「保険金ゼロ」にも「50万円」にもなる

実際に、私も保険会社の鑑定士に聞いてみたことがあります。「自然災害判定をするための基準は、何かあるんですか?」と。鑑定士はこう言います。

 

「特に明確な基準というのはないんです。あくまで傾向としての判断ですね」

 

つまり、判定は鑑定士の「主観」によるものなんです。

 

一つ例をご紹介しましょう。あるお客様に外壁塗装を含む大型リフォーム工事をご提案している時のことでした。雨樋だけは保険申請でいけると思えたので、自然災害で保険申請をしたのですが、保険会社の鑑定士が実際の雨樋の損傷を査定したところ、結果はまさかの「ゼロ判定」になってしまいました。つまり、「1円も保険金は出ません」という内容です。たしかに、損傷事態、微妙といえば微妙なレベルではあったのですが…。

 

ところが私は納得しても、お客様は納得できません。「10年以上高い保険料を支払っているのに、ゼロはないだろ! ゼロは!」と怒り心頭です。

 

その勢いでお客様は、鑑定士を変えての「再鑑定」を依頼しました。すると新しく来た鑑定士の結果は…。

 

「あれっ!? まさかいきなりの50万円認定!」

 

あの最初の判定は、一体なんだったのか? つまり…そんなものなんです。

 

ただし、明らかな自然災害ではないのに、虚偽の申告による保険申請はダメですよ、詐欺になりますからね! 保険申請にあたっては、専門の調査士や団体があるので、そういったところに依頼してみるのもいいかもしれません。

 

 

屋敷 康蔵

一般社団法人建物災害調査協会 理事

 

 

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    屋敷 康蔵

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