「自由設計だから、なんでもできる」という勘違い
「自由設計」…。なんて魅力的な言葉でしょう。すでに決められた間取りの建売住宅とは違い、注文住宅の自由設計になると、なんでも自由にカスタマイズして、オリジナルのマイホームがつくれるイメージがありますよね。
実際、お客様でも結構います。「自由設計なんだから、なんでもできるでしょ!」みたいな方が…。
しかし、日本の耐震基準・建築基準法はそんなに甘くはありません。また、さらに住宅メーカーが各々のメーカー基準で「設計原則」をつくり規制を設けているので、お客様が思っている以上に設計に縛りがあるのが現実です。
営業マンの「間取りイメージ」は基本的に再現不可能
契約前にはイメージを見せるために、お客様の目の前で営業マンがCADソフトを使い自由に間取りをつくっていきます。パフォーマンスとしては最高のツールとなりますが、一つだけ落とし穴があります。
こういった類いの簡易ソフトはあくまで“イメージ”の作成であり、実際にその建物が建てられるかどうかは、また別の話であるということです。実際の本設計では、営業マンが作成した、設計士から見たらまるで「子供が描いたマンガ」のような図面がそのまま採用されることはありません。
設計士がきちんと構造計算し、手直しする必要が生じてくるのはいうまでもありません。ですから、実際の契約図面や施工図面の作成に入ると、今まで営業マンと打ち合わせした図面に指摘が入ることは頻繁に起こります。
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営業:
「実は、先日まで打ち合わせしていた図面に設計から指摘が入りまして…。リビングの窓をこの大きなサイズのものにしてしまうと、耐震計算上問題があると言われましたので、一回り小さなサイズの窓に変更させてください。あと、こことあそことこちらにも柱が必要みたいで…。」
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もちろん、最初の図面のまますんなりいく場合もあります。ところが、あまりにも奇抜な間取りや、個性的過ぎるつくりを求めるお客様との打ち合わせは、往々にしてこのような事態を引き起こすのです。修正依頼が多過ぎると、お客様の中には「今までの打ち合わせは一体なんだったの!!」なんて怒り出す人もいます。
住宅メーカーの営業マンも、それなりにきちんとCADソフトの研修や設計原則のルールを学んではいますが、実際のところパーフェクトに設計部門のチェックを通過できる図面をつくれるのは、営業マンの5人に1人といったところでしょう。
最初から「設計可能な図面を作る」のも難しい業界事情
「だったら最初から設計士が設計してくれれば…」と思われるかもしれませんが、住宅メーカーという完全に分業化された組織では、これがなかなか難しいところなのです。
設計部門というのは非常に業務多忙な部署です。施工図面の作成から着工前の役所への申請など、営業マンとは逆に契約後の業務が山ほどあります。契約前の、しかも契約する確証のないお客様の図面や間取りの打ち合わせにまで、いちいち駆り出されては仕事が回りません。
ですから完璧ではないにせよ、ある程度は営業マンのほうでベースとなる図面を作成してから設計部門にバトンタッチするというのが、今の住宅メーカーの主流であり、一般的な流れとなります。
ある程度の妥協が必要…「自由設計」の真の意味
もう一つ知っておくべきことがあります。住宅メーカーのいう「自由設計」は、基本的に「規格自由設計」であるということです。つまり、オールフリーではなく、メーカー独自の設計ルール・設計原則に従ったうえでの「自由設計」なのです。あくまでそのルール内なら自由な設計が可能ですが、その基準を少しでも逸脱する場合は、いきなり割高な追加料金が発生します(そもそも認められない場合もあります)。
ご存じの方も多いかもしれませんが、住宅というのはどこのメーカーでも「真四角の総二階」の建物がコスト的には一番安く抑えられ、凹凸のある設計は費用が割り増しになります。今はプレカットといい、木材も工場で規格の寸法に加工されて現場で組み立てるやり方が一般的なため、規格外の寸法や形のものは手間がかかる分、割高となるわけです。
もちろん、余計な手間をかけて最大限自由に設計してもらうのも可能ではありますが、その分「お金」がかかるということを忘れてはなりません。特に『大改造!! 劇的ビフォーアフター』(朝日放送テレビ)という番組で匠(たくみ)がつくるような、変わったデザインや建築家の手によるデザイナーズ住宅のようなタイプを「自由設計」だと思い込み、一般の住宅メーカーを訪れる人も、若いお客様を中心に少なくありません。
その手の住宅は建築費の他に、一般の住宅メーカーの見積もりにはない「デザイン費」という項目が存在します。デザインやアイデアも「タダではない」のです。規定の坪単価内で収めるには、自由設計といえども、ある程度の妥協が必要となることは覚悟しておかなければなりません。
屋敷 康蔵
一般社団法人建物災害調査協会 理事
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